さきほどアップロードしたドラマ「医龍」の話の続きです。
今回の放映で、私のツボにはまったのは、胸部の弾丸摘出のあとに主人公が言った台詞。
「Z形成したからキズはほとんど目立たないようになるだろう」
いや~、こころにくい配慮! と思いましたね。
この一言、なかなかマニア心をくすぐります。医龍ではわかる人にしかわからないキーワードがあちこちに埋めこまれていて、医療関係者としてもなかなか楽しめます。
Z形成というのは、ナースでも知らない人が多いんじゃないかな。
たまたま前回投稿した形成外科の話で少し触れていたんですが、今回のドラマにインスパイアされて、説明用の図まで作っちゃいました。
Z形成というのは、形成外科手術のテクニックで「皮弁」(ひべん)の一種です。
今回のドラマでは、銃創による皮膚欠損でしたが、ふつうは腫瘍摘出などで大きく皮膚を切り取らなくてはいけない場合などに、キズを目立たなくするために使われるコスメティックな皮膚形成技術です。
上の挿し絵で縦長の楕円が皮膚欠損部と思ってください。(図をクリックすると拡大表示されます)
キズが大きい場合、左右に縫い合わせようとしても寄せられません。そんなときは、オレンジの線で示したように皮切を入れ、脂肪層を剥離してペラッとめくれるような感じにします(フラップ状にする)。
で、次に青い矢印で示したように、フラップを上下に入れ替えるようにすると、キズはちょうどZ状になり、ジグソーパズルのように無理なく欠損部に組織をはめることができます。
補助線的に切れ目を入れることで、創を寄せるときの皮膚の緊張が周囲に分散されて、欠損部を埋めることができる、これがZ形成と呼ばれる技術です。
長い直線のキズより、ジグザグなキズの方が視覚的に目立ちにくいということもあり、美容・形成外科の領域で多用されています。
Z形成を応用として、もっとたくさん切れ目を入れてW字型にしてより皮切線の延長を図ったり、さらに複雑な皮弁もありますが、まあ、パズルみたいで見ていておもしろいです。形成外科医の巧の技を感じるテクニックの代表じゃないでしょうか。
ドラマ「医龍」では心外(心臓外科)の医者が若い女性患者の胸にできたキズに気を遣って、そんな畑違いの高度な処置をしてあげたということでした。生きるか死ぬかの大きなオペなのに、そんな気遣い、こころにくいなぁと思った次第です。
コメント
Z形成ってそういうことだったんですね!
いつも気づくとZ型になっていたので、ようやく理解できました~。
ありがとうございます!
ところでまたまたリクエストをお願いします。
3Mドレープやイソジンドレープについてです。
うちの病院では、1外の開腹やギネの開腹には使わないのですが、
脳外では使うし、ウロの開腹でたまに使ったり使わなかったり、
心外とバックボーンはイソジンドレープだったり、さまざまです。
脳外では髪の毛などから汚染を守るため…ということと、
心外や脊椎は感染予防からイソジンドレープなのかな?
ということは想像付くのですが、(でもドレープ貼る前に消毒するのに?)
ほかのオペではどんな意味があるのでしょうか?
同じ開腹でも使うときとは一体どんなときなのでしょうか?
貼ることによってどんな意味があるのでしょうか?
教えてくださ~い!
イソジンドレープに関しては、これぞというネタはないのですが、なっちゃんさんのおっしゃるとおり汚染から創部を守るためなのだと思います。私の施設でも、THAなどの人工物手術や脊椎手術では必ず使いますね。
「でもドレープ貼る前に消毒するのに?」とありましたが、この部分で一言。
術野の術前消毒って、どれくらい効果が持続するかご存じですか?
これは術前の手洗いとも関連していますけど、消毒後30分~2時間くらいの間には、人間の毛穴の奥に隠れていた常在細菌が出てきて、消毒前とあまり変わらない状態に戻ってしまいます。
それを考えるとイソジンドレープを貼ることの意味が見えてくるんじゃないでしょうか?
開腹手術、それも消化器系の手術の場合、イソジンドレープを貼る意味はほとんどないと思います。Dr.の好みの問題なのでは?
術前消毒ってそれくらいしか持たないんですね。
知識不足でした。
…となると、やはり感染リスクが高くて長時間に及ぶような
脊椎や心外の手術には必要になるんですね。
理解できました。どうもありがとうございました。
そう、意外なようですけど消毒って今まで考えられていたほどの重要な意味はないって言われはじめているんですよ。
なっちゃんさんの病院では、閉創後に傷口をイソジン消毒とかしてます?
うちの病院もここ2年くらいの間に各科で術後消毒をやめるようになって、今では一部の頭の固いドクター以外は全廃状態になりました。
そのうち、このブログでも取り上げようと思っているんですが、「消毒」はオペ室にとって今いちばんホットな話題かもしれません。
もしご存じでなければ、ぜひこのサイトを見てみてください。
「新しい創傷治療」
http://www.wound-treatment.jp/
特に「消毒について」というあたり。
もしかしたらビックリするようなことが書かれているかも。