医療アーティスト➖形成外科手術の話

手術室で取り扱う数多くの診療科のなかでも、私が個人的に好きなのは形成外科

なんだか形成外科手術には心惹かれるものがあるんですよねぇ。

他科とは明らかに違う雰囲気というか、単なる「技術」ではないアーティスティックな感じが好きなんです。

■ 形成外科とは?

一般の人にとって「形成外科」はあまり馴染みのない診療科かもしれません。他の診療科が胸部外科とか脳外科とか基本的に体のパーツ毎に専門化されているのに対して、形成外科が扱うのは体の体表面や見た目に関する部分すべて。

比較的新しく確立された分野で、総合病院のなかでも比較的大きめの病院でないと標榜してないかもしれません。

よくある形成外科の手術としては、ヤケドの植皮や褥瘡の皮弁形成、粉瘤などのちょっとした腫瘤(腫瘍)切除など。このあたりなら皮膚科でも整形外科でもやりますが、形成ならではの手術と言えば、やっぱり切断肢の接着でしょうか?

機械に巻き込まれて切断された指などを繋げる手術などは、やっぱり見ていて「技」を感じます。へぇ、ホントにくっつくんだ! となんだか魔法を見ている気分。そう、そこなんですよね、形成外科の魅力って。体表で見える部分を大幅に”改造”されていくのを見るのがとっても不思議なんです。

顎関節症などの、下顎の骨切手術では明らかに顔立ちが変わりますし、マブタを二重にする重瞼術、鼻を高くする隆鼻術、胸を大きくする豊胸術、乳癌でなくなった胸の膨らみをもう一度作る乳房再建術など。

■ 美容外科は形成外科の一部

そう、私の勤務する病院では、形成外科の他に美容外科も標榜しているんです。いわゆる美容整形手術ですね。世間では「美容整形」という言い方をしますので、整形外科の一種と勘違いしている人が非常に多いですが、正しくは美容外科といい、形成外科の領域になります。

整形外科は骨を削ったりネジ止めしたりする力仕事中心の荒々しい男の世界。形成の繊細さとは対極にあるような気がします。(私の個人的意見ですけど)

形成・美容外科では見た目を重視しますので、当然皮膚縫合の縫い方はすごく丁寧。おなじ粉瘤を取るのでも、一般外科や整形外科でオペした場合、病変である腫瘍を切除するのが主目的だから皮膚縫いはおまけみたいなもので非常におおざっぱ。

それに対して形成では腫瘍を取ってからが本番みたいな感じで、時間をかけて細かく縫っていきます。一般外科では3-0ナイロンで4針くらいで縫うところを形成外科では細い6-0プローリンで20針くらいかけて縫ったり。

皮下腫瘤なら外科系のどの科にかかっても切ってくれますが、私なら絶対に形成外科に行きますね。おなじ手術代を払うなら丁寧にきれいに縫ってもらった方がいいですから。

■ 皮弁形成のテクニック

形成外科手術について、なにか新人さんに役立つことを書こうかと思ったのですが、なかなか難しいですね。本当は形成外科の十八番ともいうべき「皮弁」テクニックについて説明しようと思ったのですが、図がないとちょっと難しいかも。。。。

大きな皮膚腫瘤を切除する場合、ぽっかりと皮膚が欠損してしまうわけで、そこをどうやって埋めようかというときに皮弁テクニックが出てきます。

小さなキズであれば、両端の皮膚を寄せて無理矢理縫ってしまえばいいわけですが、数センチ大の皮膚欠損を寄せるとなると、まわりにシワがよってしまうし、縫着部に大きなテンションがかかってしまいます。

そのテンションを分散させてきれいに欠損部を埋めるために、創に切れ込みをいれて、皮膚と皮下組織を剥離しパズルのように組み合わせるのが皮弁(flap)やZ形成と呼ばれる技術。

このあたりはやっぱり文字だけで説明するのは無理ですね。百聞は一見に如かず。実際に皮弁手術を見たことあれば、すぐにその仕組みはわかると思いますが、ピンとこなければ病院図書室にある形成外科の本をあたってみてください。

一言に皮弁といってもいろいろなパターンがあって、「え、こんなこともできちゃうの?」みたいな例がたくさん写真入りで載っていると思いますので。なかには顔面部の皮弁などけっこうグロイのもあるんですけどね。

皮弁はデザインがキモですから、実際に切り始める前にマジックやピオクタニンで納得のいくまで皮切デザインを考えます。場合によっては手洗いをするまえに1時間以上かけてデザインをするなんてこともザラ。他の科の手術では考えられないそんなアーティスティックなところに形成外科の魅力を感じてしまうんですねぇ。

◆  ◆  ◆  ◆

美容外科の器械出しで修行を積んだら、将来的に美容外科専門クリニックで働けないかなぁなんて密かな願望。美容外科クリニックって基本的に日勤だけだし急患のon callもないし、給料、高そうじゃありません? (笑)

ナースのための新形成外科学(金原出版) 標準形成外科学(医学書院) 『ナースのための新形成外科学』は、おそらく看護師向けに書かれた唯一の形成外科テキスト。使われている写真などがかなり古くさいのが難点だけど、他にいいのがないのだから仕方がない。ちなみに私はブックオフで105円で買いました(笑)。形成外科のテクニックをしっかり勉強したければ医師向けの『標準形成外科学』がわかりやすいです。コイツは病院図書室にも置いてあるはず。

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コメント

  1. artput/ takita より:

    はじめまして
     
    職業別ブログ集サイト“仕事コトログ”と申します。貴サイトを仕事の現場
    の空気を感じ取れるサイトとして、勝手ではありますが、選ばせていただき
    ました。掲載の拒否、ご要望などありましたら、お手数ですが、御連絡いた
    だけると幸いです。よろしくお願い致します。 artput/ takita
     
    掲載ページ:http://www.artput.net/joblog-kangoshi.html
     
    http://www.artput.net/joblog.html
    info@artput.net

  2. 管理人 より:

    takitaさま
    開設間もない拙ブログに目を留めてくださり、ありがとうございました。
    ウェブという公の場に公開しているブログですので、リンクに関しましては問題ございません。
    どうもありがとうございます。
    ただ強いて言わせていただきますと、今現在「看護士」という呼称は廃止になっています。
    男女ともに併せて「看護師」が正式名称になっていますので、ジャンル名の修正をお願いします。