オペナースの憂鬱~ 打倒「リキャップ禁止」論

ちょっとまえに頂いたコメントからの話題なんですが、病院のなかで手術室看護師というのはちょっと浮いた存在なのは間違い有りません。

まあ、それは看護学生時代にも、手術室看護師の仕事なんてこれっぽっちも教わらないことからも自明ですが、病院組織のなかでも、看護婦といえば病棟勤務のナースが圧倒的多数で、すべての基準は病棟に照準が当てられていると言えます。

病院内、もしくは看護部内でいろんな通達や「おふれ」が出されますが、みんな病棟関連の話ばかりで、オペ室にはまったく関係ないようなことばっか。

そんな疎外感だけならどうでもいいのですが、やめてほしいのは病棟を想定した「決まり」を無理矢理オペ室に適用すること。はっきり言って余計なお世話です。

その代表格が注射針の「リキャップ禁止」令だと思っています。
リキャップをいまさら説明するまでもないと思いますが、採血や注射をした後の注射針はその場ですぐにプラスチック専用ケースに捨てて、再びキャップをかぶせてはいけないという決まりのことです。

医療従事者の針刺し事故でもっとも多かったのが、このリキャップをしようとして誤って自分の指に患者に使用済みの注射針を刺したという事例だったそうで、針刺し事故防止のために、リキャップは絶対厳禁というのが、いまの医療業界全体の流れ(というか常識)になっています。

「まあ、なるほどね」とほとんどの人はうなずくと思うのですが、オペ室の場合を考えると、諸手をあげて賛成とは決して言えません。

なぜなら術野で使う注射薬(ほとんどは局所麻酔薬ですけど)は、一回打ったらおしまいというわけではなく、術中必要に応じて何度も追加打ちをしていくものだからです。

リキャップがダメと言われたら、剥き出しの針のまま、器械台にピストンを置いておかなければなりません。ただでさえいろいろな器械でゴチャつきやすい器械台。医者が勝手に器械を投げて返してくるし、勝手に手を出して器械を取っていく場合もある。

そんなところに針剥き出しのシリンジを置いておく方がよっぽど危険です。

病棟だったら、採血なんかは一回刺したらおしまいで捨てればいいですけど、術野で使うピストンはそういうわけにはいきません。

それにきちんと統計として出されていますが、オペ室でいちばん多い針刺し事故の原因は、縫合針によるものなんです。そりゃそうですよね。剥き出しの針を直接手で取り扱って、Dr.との受け渡しなんかをしているわけですから。

針先やメス刃を直接手で触ることなんて考えられない病棟事情だけで勝手に作られたリキャップ禁止令をそのままオペ室に持ってこられても、うちらとしては「はぁ~?」って感じです。

針ごときでガタガタ言って、日頃注射針よりタチの悪い縫合針を手で付け替えてるうちらはどうなるの? って思ってしまいます。

で、さらに頭に来るのが、そういう病棟中心の院内で決まった方針を無条件にオペ室に持って帰ってくる上司(師長とか主任ですね)。

「院内全体でリキャップ厳禁に決まりましたから。オペ室もこれからはリキャップ禁止です」

そりゃ決まったのはいいけど、じゃあリキャップしなきゃ、どうしたらいいわけ? 一回一回針を捨てて新品を付けなおせということ??

なんの具体策もなく、うちらにとって危険な状態を強要する態度にはがっかりです。オペ室事情なんて病院上層部は知らないわけだから、そこをうちらの立場を代表して意見してくれるのは管理職だと思うのですが、絶対多数の病棟スタッフを前にしては何も言えない様子。

そんなわけで、私はリキャップ禁止令の中、自分の判断でリキャップは続けています。もちろん、指に刺さないように方法には注意してますけどね。

リキャップをあたりまえにし続けて早数年。でも注射針での針刺しは皆無です。その間に縫合針で指を刺したことは両の手で数えるほどあるのですが、、、

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. kenji より:

    拍手です!そうです,リキャップキンシと唱えていれば医療安全,というおかしな風潮があります.とあるラボでは,肝心の使用後の注射針を捨てる医療ごみ箱が部屋の隅にあって,数人がそれぞれ作業している部屋の中でなんと,血が滴ったむき出しの注射針を持ってうろうろ歩きまわっていたのだ!あの人の背中30cm側,この人の頭の10cm後ろをキャップしていない使用後の針を持ってごみ箱前50cmまで歩いて,最後に投げ込んでいたのだ.へりに当たって跳ねたら...言葉は独り歩きをはじめる

  2. 伊藤 正次 より:

    私はITのコンサルタントと共に、リスクマネジメントコンサルタントをしております。昭和大学さんの附属病院の医療機能に関わる評価などを手伝っております。
    リキャップの問題はどこにでもあり、もう少し知恵を絞れば解決できるのではないかと考えております。
    一緒に考えませんか?