さて、先週予告したとおり、ドラマ「医龍」を見ての感想です。
今回の話は、バーの店員の女の子が強盗に撃たれて、たまたま現場に立ち会った麻酔科医と研修医が応急処置。でも出血が多く救急車内で蘇生を諦め心停止。病院についたら主人公が待ちかまえていて、「諦めるな!」と一喝。心臓の房室結節部に刺さっていた弾丸を摘出して見事にサイナスリズムに戻ってめでたしめでたしというお話しでした。
突っ込みどころその1。
神さまのようなスゴ腕を持つ麻酔科医が救急車内で匙を投げた症例なのに主人公が当然のごとく助けてしまったところ。麻酔科医というのは麻酔をかけるしか能がないという誤解がそこにありませんか? というのが私のつっこみ。
麻酔科医というのは、麻酔をかけて醒ますのだけが仕事ではなく、基本的には救命蘇生のエキスパートです。いまでこそ救命医という存在もありますが、消えつつある命を救うのは基本的に麻酔科医の専門領域です。
主人公でさえ一目おく蘇生のエキスパートである麻酔科医が「無理」と諦めた症例なのに、それを外科医である主人公がたやすく助けちゃったら、そもそもその麻酔科医の面目は丸つぶれというか、実は凄腕でもなんでもないんじゃない? と思ってしまうんです。
まあ、ドラマ上、グテングテンに酔っぱらってたし、私情も絡んできて冷静な判断ができなかったという好意的な解釈もできますけど、、、、。
よく考えてみたら麻酔科医って、世間的にはナゾな職業かもしれませんね。
うちらオペ室スタッフにとっては、非常に身近な存在で、常に麻酔科医とチームを組んで仕事してますが、病棟ナースからは麻酔科医の仕事内容は非常に見えにくいモノなのかも、と思いました。ましてや一般の人たちにとっては、麻酔科医って何者? と思うのも無理はないかもしれません。
医龍の最初の方は私は見ていないのですが、どうもこの麻酔科医、とにかく腕が良くて、その敏腕さの象徴が「一目見れば人の体重がわかる」「どんな人でも7秒で眠らせる」のだそうです。
素人さんにとっては、なにやらすごそうな印象を受けるのかもしれませんが、関係者から言わせるとナンセンス。だからなんなの? という感じです。麻酔科医にとっては重要な患者の体重(体重で麻酔薬の量が決まりますので)。それが一目で正確にわかるなら便利ですけど、まあ便利だなという程度のもの。
「7秒で眠らせる」というのは、体重や全身状態のデータを加味して、絶妙に麻酔薬の量を調整するということなんでしょうけど、別に7秒で意識消失しようが20秒かかろうが、臨床的にはなんの違いもありません。
麻酔科医の本領発揮というのは、その後の全身管理、手術侵襲などによって刻々とかわる患者の全身状態に対応していかに呼吸・薬剤を調整していくかにあると思うんです。
あとはトラブル発生時へのとっさの対応ですね。
よく言われますけど、麻酔科医の仕事は飛行機のパイロットと似ています。航行中は自動運転で一見ヒマそうだけど、常に飛行状態を監視し、いざというときに対応するという危機管理のエキスパートであるということ。
あと離陸(麻酔導入)と着陸(覚醒・抜管)のときだけは手動操作で技量が発揮されるという点も麻酔科医と似ています。
まあ、そんなわけで、麻酔科医の本領というのは術中管理にあるわけだけど、なかなか地味な部分なので、「7秒で眠らせる」というなにやらすごそうなキャッチコピーを持ってきたんでしょうね。
コメント
私も手術部で働くまでは、麻酔科医って暇そ~…なんて思ってましたが(笑)、
全くの誤解でしたね。(先生、ごめんなさい)
それに麻酔だけでなく、「痛み」のエキスパートでもあることを最近知りました。
麻酔ってあまり看護学生のころは詳しく勉強しなかったので、
今教科書を読んでみると、とても勉強になります。生理学の復習にもなるし。
そうそう、うちの病院の先生に
「どうして麻酔科医になったんですか?」と聞いたら、
「本当はパイロットになりたかったんです」
っておっしゃってました★
そうそう、麻酔科医といえば疼痛ケアのエキスパートという側面もありましたね。
うちも麻酔科外来(ペインクリニック)があって、帯状疱疹とかASOなどの疼痛ケアでEpiカテ(硬膜外麻酔カテーテル)を入れる手伝いなどをオペ室ナースが外来まで出張したり、なんてこともやってます。
麻酔科医はその名前から麻酔をかけるだけが仕事みたいなイメージですけど、麻酔科(ペインクリニック)で開業するとか、活躍の場も拡がっているみたいです。
なにぶん診療科として独立してから日が浅い分野ですからね。これからますます確立していくんだと思います。
そういえば昨日、おとといは麻酔科学会。麻酔科医は出払ってオペ室は大掃除日でした。
あははは・・うけますね。。
<<「一目見れば人の体重がわかる」「どんな人でも7秒で眠らせる」
本当にだからなんなの??ですね。
それよりも『一発で挿管、3分でepi』の方がよっぽど使える麻酔科だと思いますけど・・・・
あと、『無痛のepi&spi』とか出来る麻酔科もいいなぁ・・・
医龍って興味深い!!友人が主人公の大ファンでDVDがあるというのでぜひ借ります。
おっしゃるとおり、うちらオペ室ナースにとっては、ささっと挿管、EPI刺入してくれる方がよっぽど、やるな!、ですよね。DVDぜひ見てください。小道具とかオペ中のセリフなんて相当のこだわりが感じられて興奮しちゃいますから(笑)
救急車の中に麻酔医が扱う道具ってあんの?(笑) それに銃創だし。 荒瀬が手を出せる傷かよ(笑)
それと、香を救ったのは朝田1人じゃねぇよ(笑) アメリカ帰りのスペシャリストにしてEmergency Roomの教授、「鬼頭笙子」が助手として手術をしていた。 それに途中から荒瀬も入ったしよ(笑) 朝田 鬼頭 荒瀬の三人で救った命だ。
突っ込みどころとおっしゃってますが ドラマの内容理解されてますか、、。
荒瀬先生と運ばれた患者さんとの関係理解されてますか、、。
一目見てその人の正確な体重を見抜いて麻酔量をきめて、『ゆっくり数えて7つ目でおとす』
すごいことですよ!?
正確な体重の分析だけでも、『緊急時』に使える薬剤の適正量が変わってきます。
体重が分かるだけで。
当然、薬剤もそうです。
多くの薬剤の使用量を決めるのは、その人の体重です。
体重(kg)あたり、何単位で決めますから。
例えば、1/3×BW×補正量 って感じですね。
薬剤コントロールにおいてこれほど有利に働く力はありません。
また、
パッと見で体重がわかるんだったら、その他の観察もされているでしょうし。
呼吸様式と組み合わせや、脈の触れ具合から
おおよその心機能や呼吸機能も当然わかるだろうし。
挿管やEpiなど『手技』に過ぎません。
Epi挿入シーンは、医龍では載ってませんが、挿管シーンなら何回も映ってますよ。
『だからなんなの?』
と意見されてますが、その裏側にあることを
考えようとしなければ、
それこそ意味がないですね。