ナースがリードする勉強会&講習会のhow to

昨日、本屋で見つけた雑誌ですが、ぜひ病院の教育担当者とか認定看護師には読んでもらいたい特集記事でした。

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エマージェンシー・ケア 2011年9月号(24巻9号)

救急ナースがリードする勉強会&講習会

企画から本番までのhow toがまるわかり

このブログでもしばしば取り上げているインストラクショナル・デザイン成人学習の内容がコンパクトにまとめられています。

ナースによっては日常的に行っている勉強会企画ですが、これも看護と同様、経験論ではなく科学の部分があります。

そもそも「教えよう」というスタンスで意気込んだ勉強会はたいてい失敗に終わります。悪いことにその失敗に企画者は気づかないで終わることがままあり、下手すると企画者は大満足、でも受講者には何も残っていない、なんのアウトカムも出せない研修というのが、ありがちじゃないでしょうか?

教えることが目的ではなく、受け手が学習するのが目的。

教え手中心の視点から、学習者中心の視点に考え方をシフトするのが、実りある研修にするための入り口。

ちょっと前にはやった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』でも、顧客中心に考えなければいけないと書かれてるのと同じです。

勉強会企画、講習企画には、きちんとしたセオリー、理論があります。

それをおさえておくだけで、勉強会の出来が雲泥の差に違ってくるはず。

なにも、勉強会に限らず、プリセプターシップとか後輩指導にも役立つ内容です。

キーワードは、

・インストラクショナル・デザイン(ID)
・教材設計
・成人学習

それぞれに奥は深いのですが、即効性のある”ARCSモデル“と”カークパトリックの4段階評価モデル“の話だけ、少し書いておきます。

ARCSは成人学習で抑えておくべき4つのポイントを示しています。

A: Attention(注意)
R: Relevance(関連性)
C: Confidence(自信)
S: Satisfaction(満足感)

掛け算の九九を覚えるような丸暗記の押し付けのような教育は成人には向きません。自我が完成した成人は「自ら学習する」ものです。それを支援しようというのが成人学習の基本スタンス。

そのためには、上記の4つを意識した支援が大切。これはパワーポイント資料を作るときでも、講演の組み立てをする場合でも同じでARCSの要素を盛り込むことがポイントです。

まず、注意を引くこと。お笑いでも同じですが、つかみはOK?、というやつです。誰もが疑問に思っている問題点を提起したり、興味を持ってもらう働きかけを。

その際に留意したいのが2番目の関連性。その話が学習者にどう関係しているのか。ざっくり言えば、その研修に参加することで、どんないいことがあるのか、を明確にすること。具体的な例があがるといいですよね。

こうやって、自ら興味を持って学習に参加する、その研修の場にいることの意味を見出してもらい積極性を引き出します。

そしてその研修内容は、難しすぎず、簡単すぎず、手ごたえと満足度があるべきです。これなら私にもできそうかなとという手ごたえ・自信を感じて帰ってもらうこと。実習があるなら、「できた!」と感じる場面と、それを評価する指導者のスタンスが大切。

もし時間が十分でなかったり、難しいと感じる内容を残してしまうのであれば、続く学習の機会を提供することも意味があります。「もっと勉強したい人はこの本がお勧めです」とか。自信と満足度は更なる学習意欲につながるものであるべきで、その目標を活かす働きかけを。

もうひとつ教材設計者が抑えておきたい考え方が「カークパトリックの4段階評価モデル」。

勉強会とか研修プログラムの目的はなんでしょう? ざっくり言えば「臨床で使える」、ではないでしょうか?

では、その研修を終えた受講者は、翌日からそれを実践できそうですか?

そう考えると、厳しいなぁということが多くありませんか?

この学習内容と実践能力の関係とその評価を考える上で、注目されているのが、カークパトリックの4段階評価モデル

レベル1:学習者の満足度・・・アンケート調査
レベル2:学習者の理解・・・筆記テスト、実技評価
レベル3:臨床での活用度・・・他者による観察、行動比較
レベル4:業績への貢献・・・(作業時間の短縮など)

病院内の集合研修でフォロー・評価できるのはレベル2までです。それを臨床で応用しようと思ったら、つまりレベル3の研修を目指すのであれば、臨床現場でのシミュレーション教育が不可欠。

たとえば蘇生教育で言うなら、講習会場でACLSを履修したとしても、それはレベル2でしかありませんから、現場で使えるかといえば厳しいです。

じゃあ、どうしたらいいかというと、職場に帰って、普段働く病棟などでリアルな機材を使ってシミュレーションを行うこと。これによって、理想化された講習会場では気づかない問題がたくさん見えてきます。

ベッドを壁から離して、頭側の柵を外さないとCPRができないとか、ベッド間が狭くて救急カートと除細動器が入らないとか。

些細な様でも、実際にやってみると大問題だったり、というのは現場だから初めてわかることです。

ちなみにオペ室でのシミュレーションについてはこちら:

オペ室での急変対応シミュレーション
https://or-nurse.com/159455469

オペ室急変対応シミュレーション 第二弾
https://or-nurse.com/217070305

手術室での急変対応シミュレーション(ACLS)
https://or-nurse.com/134251343

こんなように、受講者が実務レベル実践可能な状態になるまでの段階を考えて、集合教育から臨床に戻ったときのフォローまでも考えて、初めてその研修プログラムが活きてきます。

「教えたんだからできるでしょ?」ではないのです。

ぜひ、そんな教育を基礎から見直す意味で、ぜひ指導役割があるすべてのナースに読んでもらいたい特集記事でした。


追記:似たような結論の話をちょっとまえに書いてました。⇒『「研究ごっこ」の弊害・・・結果を出せてない「看護研究」制度

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コメント

  1. より:

    検索していたら、こちらのホームページにたどりつきました。
    私は現在看護師をしています。今、大学の資格を取りたいと考えているのですが、どこで取得するのがいいのかと考えているところです。私も放送大学を考えていたのですが、他にも同じようなシステムの学校はないのかと探し中です。
    このコメントを読ませて頂いて、なぜ放送大学にされたのか?放送大学と仕事の両立はどうなのかなどを教えていただけたら、嬉しく思います。突然のコメントにて、このような内容ですみません。

  2. ままなーす より:

    めっつぇんばーむさん、お久しぶりです。
    お勧め文献購入いたしました。
    私は、院内の救急看護教育グループに入っておりまして、先日集合教育を行ったところです。
     
    でも、なんだかなあ…
    結局臨床で使える研修にならなかったなあ…
     
    いろいろ難しいことがたくさんあって、迷いながらです。
     
    これからも、参考にさせて下さい。