「疲れ果てる看護師」~朝日新聞記事

2008年9月26日の朝日新聞に掲載された記事をご覧になりましたか?
 
「疲れ果てる看護師」
=24歳、宿直明けに急死=

 
 
「疲れ果てる看護師」24歳、宿直明けに急死(朝日新聞記事)
 
朝日新聞の社会面に署名記事として掲載されたこの事件、私のオペ室でも話題になりました。
 
「問題は人数が少ないことなんだよね 人手不足なんだよ」
「この仕事の忙しさ…… 絶対事故が起きるわよ…… 怖いわ~」
 
仕事に追われる苦しさをインターネットに日記を綴っていた24歳の看護師、高橋愛依さんが、その1ヶ月半後に急死。

「宿直明けの朝。ベッド代わりにストレッチャーで仮眠をとっていた高橋さんが、意識不明に陥っているのを同僚が発見。すぐに救命措置がとられたが二度と意識は戻らなかった」
(同記事より)
 
ただのニュース記事ではなく、朝日新聞社の記者と思いますが、能瀬輝彦氏による周辺事情調査・考察が続きます。
 
「手術部は密度の濃い職場だ。いったん手術が始まれば、何時間も立ちっぱなしで患者の介助や医師のサポートに回る。緊急手術がいつはいるかもわからない。
 そうした忙しさからか、同僚や先輩は次々退職し、26人いた職場は18人までに減った。宿直回数は増え、12日間連続の勤務になるなど疲れは溜まっていった。
 それなのに、補充要員は新人ばかりで負担は逆に増え、寮に書類を持ち帰って仕事をすることも常だった」
(同記事より)
 
うちもまさにそんな感じです。
ここのところ中堅でやめる人が多く、補充はあっても全くのオペ室未経験者ばかり。
いくら病棟で長い経験があっても、オペ室業務(実務)はまったく別。オペ室新人ナースが一人前になるには3年はかかります。
 
そんな事情を、人事権を握っている看護部長はまったく理解しておらず、ただの人数調整の人事配置しかしないから、職場に残った人たちはどんどん苦しくなるだけ。いまは新しく来た人たちが1年後もオペ室に残ってくれていて、そのときに自分たちが少しは楽になる、ただそれだけを願ってがんばっている感じです。
 
でもそのがんばりも、追い打ちをかけるように人がやめていくと、だんだん無理が出てきます。
 
その無理というのが、ただ「仕事がキツイ」というだけなら良いのですが、看護師の仕事はそうじゃありません。ましてやオペ室の仕事ともなれば、かなりの危険なリスクを伴う業務です。
 
絶対数が不足していて、かつそのうち一人前の人が半分もいない今となっては、これまでと同じ件数のオペをこなすのはどう考えても無理なのに、オペは減らない。
 
無理矢理手術をこなす影で犠牲になっているのは、『安全』です。
 
これまでは1年目の看護師同士のペアでオペを担当させることなんてあり得ないことでしたが、そうせざるをえない状況となっています。
 
過労の犠牲になった高橋愛依さんがブログで残していた言葉、
 
「この仕事の忙しさ…… 絶対事故が起きるわよ…… 怖いわ~」
 
という言葉を本当に切実に感じます。
 
病棟と違って適正人員の基準が存在しないオペ室。7:1看護のあおりでオペ室の人員はカット。本当はいちばん手厚くして安全を確保しなければいけない職域なのに、そのガイドラインが一切存在しないのです。
 
病院経営的にも、いちばんの収入源となる部署なのに、その冷遇ぶりにはただただ呆れるばかり。
 
体を壊す前にこの場を離れようと考えてしまうのも仕方ないと納得できます。
 
先月末でまたひとり辞めました。
 
それと前後して、体調不良で連日誰かが休んでいるような日々が続き、忙しさが末期状態。
 
ちょうどいま、退職や部署移動の希望調査が行なわれています。
 
いまのオペ室崩壊に向けての序曲とならないか、、、気懸かりです。
 
 
オンコールと称して、労働基準法の週40時間の法定就業時間以外にも身柄を拘束されたり、深夜の呼び出しにも対応している手術室看護師の労働条件はどうあがいたって病棟勤務者より劣悪です。
 
それに耐えてがんばってきたのは、「自分たちにしかできない仕事」という自負があるからです。夜中であろうと自分が行かなければ手術はできません。病院内にナースはたくさん居たとしても、手術の準備・介助・マネージメントをできる人は自分たちの他にはいない。
 
そんな使命感が優位に働いているうちはいいのですが、限界を越えると発想は転換します。
 
同記事の最後には今回の事件の担当弁護士の方のコメントが載ってました。
 
「限界が来るまえに辞めてしまう看護師が多い。看護師たちの労働環境の改善は急務だ」
 
そう、看護師はいくらでも転職口があるのです。
 
問題が大きくなる前に身を引く人が多い職域。そうしてどんな劣悪なところでも入れ替わり立ち替わりは人が入っては抜けていく。その繰り返しで、決して問題の根本的解決にはならずに利用者である患者にとっては危険な状態が続いていくのです。
 
この記事を読んだうちの職場の主任がいってました。
 
この記事を書いた記者さんに病院内で講演してもらいたいなって。
 
こうしてオペ室勤務の特殊性と人員不足の問題が公になった今、今後の改善への兆しが少し見えた気がしました。
 
 

参考:ブログ『 愛依 love you ずーっとあいしてる
↑高橋愛依さんのお母さまのブログです


 

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コメント

  1. りりぃ より:

    私も死ぬ前にオペ室をやめようと思っています・・・
    仕事自体は嫌いじゃないのに、過酷すぎて心身ともに持ちません。
    本当に劣悪な待遇です。
    タイムカード押して出退勤の証拠を残したいです。
    医療の世界って医師も看護師も自分の身を削って献身する事が当然というか、それが美学になっている気がしてなりません・・・
    高橋さんのご冥福をお祈りします。

  2. 777 より:

    手術室以外にも、(ICUを除く)救命センター、外来の看護師には診療報酬に定められた定数はありません
    一般病棟には7:1看護が導入されたため、看護師の補充は病棟優先です。
    比較的潤ってきた一般病棟の定員も、外来看護師の定数を排除して、病棟看護師が応援に行くようにしたり、産休・育休看護師を定数にいれてごまかしています
    よって、手術室の看護師の補充できる病院なんてありません。
    しかし、手術は朝から晩まで定時OPが入っていますし、午後から時間のかかる手術も強引に予約してきます(←殺意)
    もちろん時間外手術で、解離性大動脈瘤のOPなど、大きな手術だと15時間以上かかります。時間外の手術は、休憩できない、おしっこ・水分補給も難しい。
    常に立ち仕事、眼の周囲以外は露出しない滅菌仕様の重装備、少しの油断が術者のリズムを狂わし、患者の急変につながる。
    待機看護師はそのつど呼び出されます。年末年始やGW、大型連休の間は呼び出されっぱなしで、
    代休を取ろうにも変わりがいません(通常業務の人が足りないから)
    OP看護は、一般的な看護の技術とはまったく違う技能が必要であり、最初から育てていかなければなりません
    一通りの技術ができるまで(機械だし、外回り、心臓血管外科など高度な手術介助)3,4年かかります
    その間にどんどん中堅が辞めていき、何も知らない看護師が補充されます。
    やめるだけでなく、出産などもありますのでその人たちは戦力50%ダウンです
     
    さて、お亡くなりになった施設は
    はもともと26人態勢だが、 昨年3月末には18人になった。 しかも新人を8人育てながらの勤務
    病身の規模などわかりませんが、急患を積極的に受け入れている病院とすれば
    これは殺人的なスケジュールで過酷な医師並それ以上の業務といえます。これはすご過ぎます!!
     
    ちなみに、これで時間外の緊急手術をしていたとして、さらに急患の要請があった場合
    受け入れ困難にてお断りすると、強烈なバッシングを受けます
    まじめにやっている救急病院を叩くのは本当に医療従事者の最後の支えを破壊しますのでやめてください
     
    PS,私も看護学士合格しました!

  3. 管理人 より:

    労災認定、下りたようです!
     
    24歳看護師の過労死認定=人員不足、宿直明けに倒れる-残業月百時間・労基署
     
    10月17日16時20分配信 時事通信
     
     東京都済生会中央病院(東京都港区)で昨年5月、宿直明けに意識不明になり、死亡した看護師高橋愛依さん=当時(24)=について、三田労働基準監督署(同区)が過労死として労災認定していたことが17日、分かった。認定は9日付。
     代理人の川人博弁護士によると、高橋さんは2006年4月から同病院に勤務。昨年5月28日午前7時半ごろ、手術室の中でストレッチャーに突っ伏しているのを同僚が発見。同日夕、死亡した。持病はなく、死因は致死性不整脈とみられるという。
     高橋さんが働く手術室はもともと26人態勢だが、昨年3月末には18人になった。新人が補充されたが人員不足の状態は続き、高橋さんは4月から5月にかけ、25時間拘束の宿直勤務を8回こなしたほか、土日に働くこともあり、残業は月約100時間だった。

  4. ぽす より:

    私も手術室で勤務しています。病棟経験もあり、病棟と比べると本当に厳しい労働環境だとおもいます。何で?こんなに休みがないんだ?や、何で休みに職場に出てこないといけないんだ?と疑問を感じます。日直・当直をする分、休日は削られていきます。わりに合わない仕事だと思いますが、それでも少しずつ手術室で働くことが面白くなってきました。それは、手術室の看護は、病棟の看護師ではできないんだ。という思いがあるし、私たちを1人前にするために一生懸命指導してくれる先輩たちがいるからだと思います。もう少し労働環境を整えてくれると、ありがたいし手術室をやめる看護師も減ってくると思います。

  5. 管理人 より:

    ぼすさん
     
    私も同じです。
    休日の呼び出しもありますが、これは必要とされていて代替が聞かない特殊業務だからと理解しています。
     
    急性期病院でしたら、看護師のなかでももっとも重要なポジションだと思いますし、その訓練や育成にも時間もかかるし、おいそれと補充要員も入らない。
     
    だったら、もっと優遇してもいいんじゃない? とは思います。手術室看護師はもっと自分たちを高く売ってもいいと考えています。
     
    たとえば手術室看護師がストライキをしたらどうなると思います?
     
    病院内でいちばん稼ぐ部署で、他の病棟から人手だけをまわしても手術なんてできるわけもない。
     
    他の病院から手術室経験者を投入しても物品の在処や器械セットの内容もわからないから即戦力にもなりません。
     
    それだけのポテンシャルを持っているんです、私たちって。
     
    もっと強気に出られるようなメンタルがあるといいですよね。

  6. かな より:

    OL→派遣社員→看護学生です。オペナースは自分しか出来ない、自分の代わりはいないというのは 私から見たらおごりです。そういう変なプライドを持つ人は一般企業にもいますが、間違いです。
     
    いざとなれば会社はいくらでも代替要員は用意するので、心配なし。そういう自分はすごいみたいな考えでいるといずれバーンアウトします。
     
    そんな大した仕事じゃないのにプライド高過ぎ。

  7. 管理人 より:

    かなさん、あまり反論するつもりもないのですが、自分という一人称ではなく、自分たち、つまりオペ室ナースたちという複数型でとらえていただけると幸いです。
     
    補充がいたとしてもオンコールという緊急対応でほかに誰がいくのか、という超短期的な話を拡大解釈しすぎな気も、、、