病棟ナースのための急変対応講習 決定版 TeamSim

密かに話題になっている ナースのための急変対応研修 TeamSim を受講してきました。

TeamSimは、正式名称を 急変させない患者観察テクニック(TeamSim) と言うようです。

前から気にはなっていたのですが、ようやくの参加。

今回参加したのは、基礎講習ですが、結論からいうと、まさに画期的。ここまでくれば最終型としか言えないんじゃない? という印象でした。

BLSやACLS、PEARSを含めて、今までの急変対応講習に決定的に欠如していた部分を埋める内容で、逆になんでこれまでこういうのがなかったんだろう? と不思議に思うくらいでした。

看護業務の中に組み込まれた急変察知のための観察プログラム

なにが画期的って、テクニカルスキルじゃないんです。胸の押し方とか、薬剤の使い方とか、そんなことではなく、病棟での看護業務の中で異変に気づくための方法論が認知科学的にトレーニングされていく、というのが学習体験としても斬新です。

講習の最初の方は、急変対応といよりは、看護業務の構造分析というか、普段ナースが行っている仕事が、脳の中でどう処理されて進められているのかという脳科学というか心理学的な話から始まります。

といっても、講義ではなく、クイズとディスカッション、身の回りの出来事との例示といった、俗にいうアクティブラーニングの形で展開されて、受講者には自然と腑に落ちていく展開が見事。

スクリプトという考え方

私達は、ユニフォームに着替えたときから仕事モードになって、頭の中では暗黙のうちに業務手順というかフローが流れていきます。あまり意識せずとも日勤とか夜勤とか、そんな仕事の流れが動き出します。それが認知科学的には「スクリプト」として説明されます。

このスクリプトが、いわば行動プログラム。このスクリプトが確立していれば、業務は効率的に自動化されて動きます。

急変させない患者観察テクニックTeamSimでは、その看護業務スクリプトの中に「患者が急変し心停止に陥る」という想定を追加しよう、ということで展開されています。

訪室するまえに、受け持ち患者のなかで心停止リスクがある患者をピックアップして、その人が悪化して心停止に向かうとしたら、どのような経過をたどるかという点を、業務開始前に想定して「プランB」として備えておこうというのが肝です。

つまり、急変という不可抗力ではなく、患者の心停止を想定内として準備しておこうというのです。

起こるべくことがおきていないことを確認する

あの人は急変して心停止してもおかしくない。

そういう視点をもって患者と接していきます。その際には、病態などから死因となるものを決めておくことが重要。そうなれば、死に至る経路が予測できていますから、様態変化の着眼点がわかります。

なにかヘン、に気づけというのは、あらゆる可能性があるため、なかなか難しいですが、この人にはこういうことが起こるかも!? という視点で見ていれば、その予測される症状がないということは、今は大丈夫と判断できるわけです。

患者急変対応コースfor Nurses から TeamSim に時代はシフト

急変させない患者観察テクニック TeamSim の開発元は日本医療教授システム学会。

日本医療教授システム学会といえば、心停止予防アセスメントの雑誌記事では必ず引用される「患者急変対応コース for Nurses」が有名ですが、その後発プログラムが、急変させない患者観察テクニック TeamSim です。

初代の「患者急変対応コース for Nurses」も当時としては画期的なものでした。

それまで急変対応といえばBLSとACLSといった心停止対応しかなかった時代に、0次救命処置ともいうべき、心停止を防ぐための講習プログラムを日本に立ち上げたのは大きな功績です。

とはいえ、それは2009年にリリースされたアメリカ心臓協会AHAのPEARSプロバイダーコースにインスパイアされてのこと。

それから約10年が経過して、まったくゼロから設計し直された日本の看護師の業務にマッチした究極の急変対応研修として日本で独自開発がされました。

あくまでも業務の一環として考える

このTeamSimは、院内心停止の8割には予兆があるということで、そのかすかな変化を見逃さず、大騒ぎになるまえの段階でさらっと処してしまおうという発想で作られています。

急変はバタつくものというイメージは、事態が大きくなってから気づくからゆえのこと。そうなると、ICUにいくとか、緊急オペだとか業務としては時間外に伸びていきます。患者安全のため以外にも医療リソースという点や、対応するナース個人の業務負担を考えても、省エネで行きたいよねという業務マネージメントとしての視点も斬新なところでした。

既存の急変対応スキル(アプリ)を使うためのOS

TeamSimについては、一言で書くことはできませんので、何回かに渡って紹介していこうと思いますが、このプログラムは、小手先のテクニックや病態生理の解説などではなく、頭の中のフレームや、システムとしての患者安全を問題としているのが大きな特徴です。

その基盤となるのは観察と判断と意思決定。つまり、インプットと情報処理とアウトプットです

BLSやACLSやPEARSは、心停止や呼吸障害やショックと言った想定された状況内での記述しかありません。患者を見たときに、ACLSというプロトコルを選ぶか、PEARSを選ぶかという上位概念がないのです。

既存の急変対応スキルのどれを適応するのかという判断能力を培うのが TeamSim と言えます。つまり、BLSやACLS、PEARSなどはパソコンやスマホのアプリであり、それらを束ねる基本ソフトである OS が TeamSim とも考えられます。

これが冒頭に書いた「今までの急変対応講習に決定的に欠如していた部分を埋める内容」という所以です。

このあたりのことは公式テキストにも書かれていますが、言語情報としてわかるだけでは、意味がないわけで、体得するという点では講習を受ける意義は大きいと思いました。


看護学生・若手看護師のための 急変させない患者観察テクニック〜小さな変化を見逃さない! できる看護師のみかた・考え方

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