前回、看護師は思いのほか心肺蘇生技術が身につけていない、という私が勤務する病院の実状について書きました。
きっとみんな、できない、という自覚はあんまりなかったと思うんです。
もしかしたら、思いのほかできない自分にびっくりしたという人もいるかもしれません。
一次救命処置なんて、手技で言えば気道確保、胸骨圧迫、人工呼吸くらいなものです。簡単といえば簡単。教科書をみればやり方は図説してあるし、難しそうにも見えない。
教科書を読んで、手順はしっかり覚えた。よし、これでOK。
・・・・というのが、もしかしたら、今までの看護教育の中の蘇生技術だったんじゃないでしょうか??
私の学校はそうでしたもん。
成人看護学のヒトコマとして心肺蘇生法に関するビデオを見て、バックバルブマスク(BVM)の実物を手にとって見ただけでお終い。期末の筆記テストでは、正しい心肺蘇生法の手順を選ぶような問題が出た記憶があります。
ベッドメイキングみたいな、ナースの精神論を説く目的としか思えないような非現実的な手技に関しては、バカバカしいほどに何回も何十回も、下手したら何百回も練習させられるのに、蘇生技術は机上の学習でおしまい。
おそらくみんな心肺蘇生法のやり方は「わかった」とは思います。
でも、それが実際に「できる」かといえば別問題。
この決定的な違いを認識しないかぎり、看護師を続ける上で悲しい出来事はたくさん起き続けるに違いありません。
実はこれは、「教育」と「インストラクション」の違いなんです。
シミュレーション教育の第一人者である獨協医科大学の池上敬一医師がおもしろいことを書いています。
地球温暖化について「知っている」だけでは、地球温暖化は食い止められない
地球温暖化を食い止めるには、具体的な「行動の変容をもたらすこと」が不可欠
例:電気を節約する
それには「教育」だけでなく、「インストラクション」が必要
タバコの害について教育すること、知っているだけでは害は防げない
問題を解決するためには、具体的な「行動の変容をもたらすこと」が不可欠
例:禁煙ができる
それには「教育」だけでなく、「インストラクション」が必要
心肺蘇生技術は実践できてナンボのものです。いくら知識があってもそれが使えなければ無意味。知ってるだけじゃダメなんです。
じゃぁ、練習すればいいのかといえば、確かにそうなんですが、ただ闇雲に練習してもダメ。
何のために? という動機づけと、到達目標がクリアなビジョンとしてはっきりしていないかぎり、その体得した技術を有効に発揮することは難しいでしょう。
そうやって人の行動を実戦可能な状態にまで持ち上げていく技術がインストラクションです。
考えてみれば、看護師が行なう患者指導の類は、みんなインストラクションですよね。
上の例でもありましたが、タバコが有害だってことは言われなくたって誰でも知ってます。そんな人にタバコの有害性を得々と説明(教育)しても、もしかしたらあまり意味がないかも知れません。
患者教育をしてもぜんぜん効果がないと感じるなら、それはタダの教育であってインストラクションではないから、とも考えられます。
それじゃ、効果的なインストラクションをするにはどうしたらいいのか? 今、アメリカではそういったインストラクションの理論がうち立てられ、少しずつ日本に入ってきています。
そのひとつが、医療従事者向け心肺蘇生教育でおなじみのアメリカ心臓協会(AHA)のコア・インストラクターコース。
いま、日本の医療教育が大きく変わろうとしています。
行動変容をもたらす働きかけ ― ナースならきっと誰でも気になるテーマだと思います。
とにかく、知っていることとできることは別問題なのだという点をしっかり理解しておくだけでも、いろいろ新しい道が見えてくるかもしれませんよ。
コメント
>蘇生技術は机上の学習でおしまい。
へ?
本当だったんだ、噂には聞いていたけど。
JPTECやJNTECレベルの知識&技術は持っていても損はないけど、そこまでのものでなくとも「基本」であるAHAにおけるBLS + Heart Saver First Aid、日赤における救急法救急員養成講習位はマスターしておいてほしいです。
でも日々の勤務が忙しくてそれどころじゃないっていう現実がありますからね…。
たしかに机上だけで終わってしまうから、現場に出てBLSができないというか分からないんですよね。
BLSは、医療従事者として基本だと思ってます。それができなければ急変があった時、あの人は何もしてくれなかった・できなかったとレッテルはられてしまいます。
BLSをもっと体で体得できるようにカリキュラムを改定してほしいですね。
へたしたら市民の方がBLSできると思います。