またまた手術室看護とはまったく関係ない話です。興味がない方は遠慮なく読み飛ばしてくださいね。
先日、AHA-BLSインストラクターへの第一歩として、コアインストラクター(Core Instructor)コースというのを受けてきました。これは大人が大人に教えるためにはどんな方法を使うと効果的かという点を学ぶ、いわば成人教育手法のセミナーです。
コア・インストラクター・コースの内容を紹介する前に、まずはアメリカ心臓協会AHAのインストラクター制度についてざっと説明しておきますね。
◆ AHAインストラクターの種類
アメリカ心臓協会(AHA)のインストラクター資格には大きく4つあります。
・ACLSインストラクター(一般的な二次救命処置)
・BLSインストラクター(一次救命処置全般)
・ハートセイバー・インストラクター(主に市民向け一次救命処置)
この中で私が取る予定なのはBLSインストラクター。この中にはハートセイバー・インストラクター資格も内包しているので、AHA-BLSインストラクターになれば基本的に一次救命処置はすべて教えられることになっています。
◆ 従来のAHAインストラクターになるまでの流れ
AHAのインストラクターになるには、BLSインストラクターならBLSプロバイダー認定を取っていることが前提条件。
その上で「BLSインストラクターコース」を受講し、最後の修了試験に合格する必要があります。ただし「BLSインストラクターコース」を無事修了できたら即インストラクターになれるというわけではありません。
次に「モニター」といって、実際にホンモノの受講生相手に指導しているところを試験官にチェックしてもらって、OKがでて初めてインストラクター認定がおりるという流れになっています。
◆ コアインストラクターの新設
今までは上のような流れでインストラクターになれたのですが、去年の夏あたりからAHAインストラクター認定制度が改定されて、コアインストラクター Core instructor コースというのができてしまいました。
これはなにかというと、これまでPALS/ACLS/BLS/Heartsaverと4種類あったインストラクターコースの中の共通部分、つまり成人教育の手法に関する部分を独立させて、ひとつのコースにまとめたということらしいです。
これによって、これからAHAのインストラクターになろうという人は、まずはコアインストラクターコースを受講して、その後でBLSなりACLSなどのインストラクターコースを受講しなければならないということ。ちょっと面倒くさくなりました。
まあ、BLS以外にACLSやPALSインストラクター資格も取ろうという人にとっては、2つ目以降の重複部分がなくなるということでメリットでもあるのかもしれませんが。
◆ とてもユニークなAHAコアインストラクターコース
このコアインストラクターコースは、これまでにないとてもおもしろい形態をとっています。e-learningと言うんでしょうか? インターネットもしくはCD-ROMを使って独習するというのが基本スタイルになっています。
コアインストラクター・マニュアルを手に入れると、そこにはCD-ROMが入っています。そいつを自分のパソコンに入れると自動的にビデオクリップが流れ出して、その映像のレクチャーを見ながら自分で学習をしていきます。
途中でいくつも問題が出てきますので、クリックして正しい答えを選択、そうやって全カリキュラムを修了するとコアインストラクター修了証をプリントアウトすることができる、という仕組みになってます。(おなじことはインターネットを使ってオンラインサービスでもできるようになっています。AHAの専用ウェブページに接続して、コアインストラクター・マニュアルに書かれているパスワードを入力するとインターネット上でもビデオ講習が受けられます。)
次のステップとしてBLSインストラクターコースやACLSインストラクターコースを申し込むときには、その修了証がないとダメ、というわけです。
パソコンで独習するコアインストラクター、なんだか簡単そうな気がしますが、全行程を終わらせるには7-8時間はかかるとか。しかも全部英語なので、ふつうの日本人にとってはちょっと厳しいものがあります。
英語に不自由がなければテキストだけを買って自宅で好きなときに細切れで勉強してコアインストラクター資格を取れるのですが、一般的な日本人の場合は、映像を見ながら日本人インストラクターが解説をしてくれるコアインストラクター・コースに参加する必要があって、テキスト代の他に受講料というのが別にかかってしまうのが難点。
◆ コアインストラクターコースで学ぶこと
コアインストラクターコースでは、心肺蘇生のテクニックがどうのこうのという話は一切ありません。内容はというときわめて教育学的な実践の話ばかり。
私たちが知っている教育とか人のものを教える方法というのは、実はほとんどが「小児教育」というのか「学校教育」というのか、つまりは子どもにものを教えるやり方なんです。
仕事場で後輩に指導するときなど、無意識のうちに自分がこれまで受けてきた学校教育のやり方をマネしているはずですが、実は大人が大人にものを教えるには学校教育の手法では効果的ではないと言われるようになっています。
子ども相手の場合、九九みたいに意味も分からず詰め込み教育をするのもありですが、自我がはっきりとした大人の場合、まずはモチベーションをしっかり固めてあげることが重要。目的を再確認させて、自分から学びたいという気持ちに持っていって、そのための道筋を示すことが重要になってきます。
それに大人が大人を教えるのですから、「そこダメ! できてない!!」とモチベーションをそぐような指導の仕方はダメ。
とにかく根本的に小児教育と成人教育は違うんだ、というあたりを学んでいくコースです。コアインストラクターコースで学ぶことは、心肺蘇生教育だけではなく、看護師であれば職場での後輩指導にも活かせますし、ありとあらゆる教育活動に使える内容だと思います。これまでの日本の常識からすると目から鱗的な感じで、興味深く学べました。
ただ実際のところ、英語圏で作られた教材を使って英語での勉強になりますので、我々日本人にはストレートには入ってきづらい部分もあります。
文化的に理解しがたいシチュエーションも多々ありましたし。世界のトレンドの先を行くAHAが取り入れた手法なので、今後こうした成人教育の方法は、別の形で日本の医療界・教育界に広まっていくような気もします。
いつか、医学界全体の教育制度の改善のためにも、日本の風土も前提に入れた日本版成人教育プログラムのようなものができるといいなと思っています。
コメント
お疲れさまでした。
成人教育手段については、ちょっと取っつきにくいけど、やりだせばおもしろくなるんじゃなかろうかと思っています。わたしもBLSでもJPTECでも成人教育とはということをしっかりたたき込まれ、実習させられてきました。でも、おもしろいですよ。何度もやればもっとおもしろくなるし、実践のあとで学ぶと新しい発見があります。そしてそれは実際に仕事をしていく中でも使えます。楽しみながらがんばっていきましょう。
・・・・今年の秋までにBLSインストの更新をしなければならないので、実はちょっとびびってます。
core面白いですよね。あれはAHAのインストコース受けないとそもそも教材自体が買えないのですが、職場で使いたいのでどっかで一般売りしてくれないかと思ってます。
実は私も院内でBLS普及活動をしているのですが、最近成人教育の具体的な方法に触れるようになって、明らかに自分の視点が変ってきているのに気付くようになりました。
自分の狙い通りにうまく行くとうれしいですよね。まだまだ試行錯誤の段階ですが、今後AHAコースのインストラクションを通して実戦経験を積んでいきたいと思っています。
santaさん、Core instructorコースに受講制限はないそうですよ。BLS等のインストコースはプロバイダー認定を持っているのが条件ですが、コアコースは誰でも受講可というのが本国AHAの方針のようです。でも実際はファカルティしか教材を本国に発注できないようなので、他のインストコースと抱き合わせにするものファカルティ次第なんじゃないでしょうか。AHA版ではないにしても、そのうち社会教育の手法として似たようなものが別ルートで日本に入ってくるんじゃないかなという気がしています。
コアインストラクターコース,お疲れさまでした.私はコアインストラクターコースはパソコンで自習し,インストラクターコースはアメリカで受講しました.コアコースは仕事の合間を縫って2日間ほどかかってしまいました.
コアインストラクターコースの教育論,Medic First Aidの概念を参考にしていると聞きました.確かに言っている事が似ていて興味深かったです.
私自身英語は得意ですので問題なかったのですが,現地で一緒に受講された方は結構ストレスを感じていらしたようです.やはり日本語化して欲しいですね.
福井ではBLS-HCPと,FAの講習を行っています.“高校生でもなれる!? AHA-BLSインストラクター”の項でHS-AEDなどに関する話題がありましたね.福井では小学生にHS-AEDを行いましたが,それ以外の方は全てHCPを受講していただいています.
そのためHCPとFAのみ教科書の日本語訳とコースDVDの日本語字幕をしました.医療資格者は英語の得意な方が多いので問題ないのですが,他の方はそこまで英語が得意でない場合が多く,日本語字幕は好評です.
HS-AEDコースは1人法が中心ですがHCPは2人法が重要であるため,HCPを勧めています.最後の筆記試験も自習のモチベーションを高めていると思います.HSは筆記試験ありませんから.
HS-AEDかHCPかは需要と供給次第ですが,いずれにせよ日本語かは必要ですね.ガイドライン2000でのBLS講習が禁止されて2005で行うように通達されてから1年が経とうとしていますが,いまだに日本語の資料が出そろわないのは日本人のやる気のなさを感じます.
AHAが全てではありませんが,もっと救命対する関心が高くなって欲しいと願います.
mimimiさん、貴重な情報&コメントありがとうございました。市民向けの講習ならやっぱり日本語になってないと厳しいですよね。でもそれは医師を除く医療従事者も同じかも。英語だとよっぽどモチベーションが高くないとおいそれと手を出せないのが現状かと思います。今はまだまだ敷居が高い感じのG2005のBLSやACLSも、日本語の教材が整えばG2000のときのように垣根が低くなるんでしょうね。でもインストラクターコースに関しては、英語の壁が残る以上、医師以外への裾野の広がりは限られるのかなぁと思います。翻訳をしても5年でまた改定されて振り出しに戻ってしまうという現実がある以上、やっぱり難しいのかもしれませんね。
BLSのupdateを受けてきたときに facultyの人に聞いた話では、次の改訂テキストは2010年じゃなくて 2008年の頭くらいに出るだろうとのことでした。大改訂は5年に1回だけどマイナーチェンジが2年半に1回くらいあるそうで。
santaさん、こんにちは。
2年半おきというとすごいペースになりそうですね。翻訳が追いつくんでしょうか?(^^ゞ
日本もアジア蘇生協議会として正式にILCOR参加することになったので、検討段階の資料がバンバン入ってくるようになっているそうです。そんなこともあってガイドラインの正式発表に合わせて日本語版の同時発表も不可能ではないとか。世界と同期した形でこの先進んでいくといいですよね。
2000と2005の間にも2003(マイナーチェンジ)があったそうなので、そもそも「そういうもの」らしいですね。AHAのガイドラインって。
evidenceとかwgでのreviewとかはそもそも英語ベースでしょうから、結局翻訳作業が必要になるんじゃないのかなぁ。どうなんでしょうか。
もちろん翻訳が必要ですけど、正式発表前のプロトタイプ段階の情報が手元にあれば翻訳作業も早く着手できますよね。そういうことです。
AHAの CPR&ECCガイドラインが 2005年12月13日に出て、日本語訳が出たのが2006年の12月ですからちょうど1年かかってます。日本の専門家が翻訳に使えるマンパワーはそもそもその程度しかないんでしょう。多分。
プロバイダ用のテキストって薄いけど、付属 CD-ROMにかなりいろんな情報が入っているので、そちらまで訳すとなるとリードタイム0にしても相当の時間がかかりそうな気がします。