看護師―「臨時応急の手当」として医師の指示がなくてもAED使用可

まずはお詫びです。

前回記事「病院に勤務する看護師は医師の指示がないとAEDを使えない!?」の中で、事実誤認があり、不正確な情報を流していたことがわかりました。

申しわけありません。

この場を持って訂正させていただきたいと思います。

前回記事の中で、私は看護師の場合は4つの条件を満たさなければ医師法違反の可能性があると書きましたが、この部分は決定的に間違いでした。

厚生労働省通達にある「業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に対し応急の対応をすることが期待、想定されている者」というのは、あくまで市民救助者のうち「一定頻度で対応が想定されている」人のことを指していたようです。

つまり看護師や救急救命士など医療従事者はこれに含まれていないということです。

AEDによる電気的除細動はれっきとした医療行為ですから、原則的には医師以外が行なえないという事実は変わりません。

バイスタンダーとしての一般市民に関しては「反復継続の意志」はないので医師法の制限は受けないというというのは前回確認したとおりです。

しかし一般市民の中でもスポーツインストラクターやライフセイバーなど心肺蘇生の現場に立ち会う頻度が高いと考えられる人たちに関しては、医師法の免責のために下記の4つの条件が課されています。

1. 医師等を探す努力をしても見つからない等、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること
2. 使用者が、対象者の意識、呼吸がないことを確認していること
3. 使用者が、AED使用に必要な講習を受けていること
4. 使用されるAEDが医療用具として薬事法上の承認を得ていること

反復継続の意志を持って医療行為(AED)を使う可能性があるという点では、看護師も同じで、医師法違反を棄却するための条項が必要なはずなのですが、これに関しては、どうもしっかりとした厚生労働省の通達というのは出ていないようです。

保助看法に基づいて、医師の指示さえあればAEDだろうと手動式除細動器だろうとナースが使用できるのは間違いありません。AEDに関してとある企業が厚生労働省に出した質問状への回答によってもそれは確認されています。(⇒ 質問状とその回答 PDF

この場合、医師の直接の指示でなくても「包括的指示」でOKのようです。

ですから、医師の指示のもとでしか医療行為は行えないという原則はここでも生きていますから、もし病院にAEDを設置するのであれば、病院の救急体勢としてナースによるAEDの使用を明文化して、「包括的指示」を明確にしておくことが重要というのは前回書いたのとかわりありません。

問題は、そうした医師からの指示がない場合にナースがAEDを使えるか、という点です。

ごくふつうの一般市民は問題なくて、ライフセイバーなどはきちんと講習を受けて医師を捜す努力をすればOK。では、ナースの場合は??

ここで思考が止ってしまいます。

いろいろ調べているのですが、どうもこれに関してははっきりとした法的見解は出されていないようです。

ただ、知識のない一般市民が安全に使えると言われているものを、看護師が使ったからといって問題になるのはおかしい―。

おそらく、ナースが医師の指示を待たずにAEDで除細動をしたとしても、責任を問われることはないでしょう。それは常識からの推察であって、公式な通達も判例もありません。

強いてそれをバックアップするなら、保助看法第37条の「ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない」という条文でしょうか。

看護師の場合、臨時応急の手当てとしてなら、通常の業務範囲を超えることが許されています。医師法違反を棄却するとしたら、おそらくこれが根拠となるのではないかなと思います。

これに関しては厚生労働省への質問状とその回答という形ではある程度は見解が示されているようです。(⇒こちらの最後の項目

結論です。

1.院内にAEDを設置するなら、コメディカルが使用する際の包括的指示を明文化しておくことが望ましい

2.医師の指示がない場合のナースによるAED使用は明文化された基準は存在しない。ただし「臨時応急の手当」としてであれば保助看法で認められている

このことについては引き続き、意見・情報をお待ちしています。よろしくお願いいたします。なお私の勘違いについて指摘を下さったsantaさん、ありがとうございました。

最後に参考になるページをもうひとつ挙げておきます。

救急看護メーリングリスト上での議論 『ナースのAEDはだめ!?』

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コメント

  1. なお より:

    私の近隣にある総合病院には、AEDが各所に設置されてますが、院内講習でナース・事務職員等を対象に使用講習会がありました。
    ナースが使用するにあたっては特に問題はないと思ってます。病院が主催して大々的にやったということは、医療職だからということは特に関係ないのではと思います。それを法律に照らしあわせるといろいろと問題がでてくるわけで、一つの命が消えかかってるのに
    法律論を優先するか人命を優先するかを考えれば後者だと思います。
    院内で人が倒れてナースがCPRはしたとしてもAEDがあったのにつけなかったとなれば、それの方が問題になりそうですが。
     
     

  2. 管理人 より:

    なおさん、お久しぶりです。
     
    さて、法律の話、現実を考えると非常にバカバカしいというのは同感です。AEDの普及を願う立場とすれば、結果的に不本意なことを書いてしまっているのは自分でも残念なところです。
     
    でも看護師は医療のプロであることを考えれば自分が行なう行為の背景にあるもの、法的根拠は知っていないとマズイとも思っています。
     
    一般市民が無条件に使えるものだからと軽く見られがちですが、医療知識があるナースは訓練を受ける必要がない、というわけでは絶対にないと思っています。
     
    法的な規定はないかもしれないけど、プロとしてAEDを確実に使えるように最新の講習を受けるべきだし、医療知識のあるナースなら自ずとそういう自己研鑽をするという前提があるからこそ使用が許可されているという部分もあると思います。この辺はPADとの決定的な違いではないでしょうか。
     
    素人なら法律なんか気にしないで直感的に行動していいけど、医療者の場合、一歩踏みとどまって考えなくてはいけない場面もあるはず。
     
    このあたりの話はアメリカの外傷プログラムITLSを受講して強く感じました。緊張性気胸の脱気や甲状輪状靱帯穿刺など、日本では医師でなければ行えない行為、でも現場で行なわなければoutの可能性が非常に高いという事実。

  3. なお より:

    AEDは、消防や日赤等で講習が行われていますが、やはりAEDは誰でも使えるということが非常に強調されてます。講習に参加してる人のほとんど(100%)が一般市民でしょう。
    これが医療従事者向けであれば話す内容も変わってくるのでしょうが。
    ミクシィのネットニュースで見てご存知かも知れませんが、東京でAEDを使用した患者への蘇生率がupしたと載ってました。何割かは忘れてしまいましたが、AEDを装着したほとんどの人が医療関係者だったとのこと。
    これを見る限りでは、医療従事者の中にAEDがかなり浸透してることが伺えます。
    私も市民に講習を開く立場ですが、数時間の講習をやった後、実際にそういう場面に直面してAEDがそばにあったとして落ち着いて使えるかといえば?な部分はあります。
    私は、講習の最後に必ず言うのが「今日学んだことを忘れないためにもこういう講習を受ける機会があったらこの前受けたからではなく積極的に受けることで自分も忘れないので受けるようにしてください」と伝えてます。
    何でもそうですが、一回教わっただけでパーフェクトなんて人は、いても少数でしょう。
    話しはずれてしまいましたが、医療従事者である以上、プロですから、最低限の法的根拠を知っていてAEDなり応急手当ができるのがいいと思ってます。
     
     

  4. レオ より:

    久しぶりにコメントします。
    私もBLS講習を近いうちに受講しようと先に本を購入し読んでいます。意外とわかっているつもり・・・の部分がありゃ違ってた。なんて所もあっていい勉強になっています。
    AEDについてもこの養成講座のおかげでいい勉強になりました。最近私の病院にもAEDの設置が決まりました。この機会に私もがんばってBLSとACLS講習を受けてみます。
     

  5. 管理人 より:

    なおさん、市民AED使用によって救命率が7倍に上がったというニュース、喜ばしいものでしたよね。それと数日前にはドクターヘリを使った方が医療費の削減が見込めるみたいな報告も出てましたし、なんだかいい方向に動いている感じがします。
     
    さて、医療従事者にAEDが浸透しているかどうかですが、私はなおさんとは違って思いのほか意識は低いと感じているというのが正直なところです。これは勤務する病院内でBLSコースを開催したり、AHAコースとして看護師などを対象に指導して思うのですが、おそらく市民が「医療のプロ」という期待の目で見るほどのものはなさそう。もちろん意識が高い人は非常に高いです。でもそれは部署にもよりますが非常に限られている感じ。まだ「医療者としての常識」というレベルにはなってなさそうです。
     
    そこで思うのは、行政としても市民への普及ばかりを検討していて肝心の医療者に関しては、各自の自己研鑽に任せているだけという感じが、法整備の問題も含めて感じられてしまうんですよね。。。。

  6. 管理人 より:

    レオさん、こんばんは。
    BLSの勉強を始められたんですね! ガイドライン2005になって微妙なところで変更になってたりするので要注意です。
     
    教科書にはあまり書かれていないエビデンスの部分を知らないと、なんでこんなことにこだわってしつこく書いてあるんだろう? みたいな点もあったりしますので、なにか引っかかる点があったらご相談ください。答えられる範囲でお手伝いしたいと思っていますので。

  7. santa より:

    病院外の心停止から社会復帰可能な形で救命するには市民によるBLSしかないわけですし、プロじゃない人たちに BLS講習に金払えと言っても効果は極めて限定的でしょう。ですから、行政として市民向けに限られた資源を投入するのはむしろ当然だと思います。
     
    プロについては、プロなんだから自分で考えろという方針ではダメなら強制するしかないとでしょう。AHA BLSのビデオの冒頭で言ってるように、一般市民は「プロならできる」と信じているわけですから。
     

  8. 管理人 より:

    santaさんのおっしゃるとおり、行政が市民向けに資源を投入するのは、ごく自然のことだと思います。
     
    AED使用に関する通達の第一報が市民向けだったのは理解できるのですが、医師以外の医療従事者はどうなっちゃうの? なんでなんの通達も出さずにほったらかし? グレーゾーンなママでいいの? とは思います。
     
    問い合せに対しては問題なしと回答していますが、なぜ市民向け同様の正式な通達を出してくれないのか、それだけが引っかかります。
     
    プロならできると信じている市民。そこと医療者意識のギャップ。けっこう切実な問題だと思います。医療者全体の意識が上がって市民の期待レベルになることを祈るばかりですが。

  9. つっちー より:

    つっちーと申します。総合病院につとめており、
    看護師のAED講習を行っている者です。
    ご指摘の通り、看護師はどこまで処置が行えるのか
    と言ったことは、判断が難しく意見が分かれる所です。
    私の意見としてお聞きください。
    当院での講習を行っている根拠は上記にあります
    「厚生労働省への質問状と回答」
    ならびに通達
    「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について」
    http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/171109-a.pdf
    であります。
     
    私はやはりAED使用は「医行為」と考えますので
    看護師も4つの条件を満たしていることが望ましいと考えています。
    当院では講習を受講し、合格した者だけが
    包括的指示のもとAEDを使用することを許可しています。ほぼ9割以上
    の看護師の講習が終わりました。
    もちろん、管理人様の「結論」が的を得ていて
    正しいと思います。
     
    手動式除細動器(AEDではないもの)に関してですが、これについては
    色々な意見があると思います。
    私としては看護師には使用をすすめません。
    もちろん、医師がその場にいて指示した場合は
    除細動可能と思います。
    しかし、医師がその場に存在しない場合、例えば
    「Vf」「パルスレスVT」
    を「診断」しなければなりません。
    この心電図診断は看護師であれば慣れれば
    ほぼ問題ないレベルだとは思うのですが、
    「診断」自体「医行為」だと考えますし、
    看護師に「重い責任」が生じてしまう可能性があると思います。
    これを回避するためにも、
    院内へのAEDの設置が必要と考えています。
     

  10. 管理人metzenbaum より:

    つっちーさん、現場で専門の方からの心強いコメント、ありがとうございました。
     
    > 私はやはりAED使用は「医行為」と考えますので看護師も4つの条件を満たしていることが望ましいと考えています。
     
    私も気持ちは同じです。最初のうちは、だからこそナースは正式なAED講習を受ける必要があるんだよ、という論調でいくつもりでした。でも調べれば調べるほど、ドツボにはまって、意図していた方向に話を持っていけなくなったというのが正直なところだったりします(笑)
     
    手動式の除細動器に関しては、当院の蘇生教育担当のトップの医師は手動でもナースに認める方向で今後教育プログラムを整えていきたいようです。私は否定はしませんが、それ相応の試験を課すなど課題は大きいよなぁと思ってます。責任という問題も確かに。AEDを日常的なまでの台数にするのがいちばん手っ取り早くていいんですけどね。