さて問題です。
数ある国家資格の中で、手技として人間に「注射」をすることが許されている資格はいくつありますか?
えーと、まず医師でしょ。それから看護師。最近では救急救命士も点滴していいんだっけ? あと臨床検査技師も採血目的なら針を刺していいんだよね….。
ということでいくつあげられたでしょうか?
私も正確な答えは知りませんが、ふつうに考えたらおそらく4つじゃないかな。
・医師
・歯科医師
・看護師(保健師、助産師、准看護師)
・救急救命士
ところがです。実はもうひとつすごい大穴的な資格があるんです。
それが「船舶衛生管理者」。
要は船の医務室(保健室)の管理者が持っていなければいけない免許で、船医が乗るほどの規模ではない船舶で、実質的に船医の役割をする人。この人たちには薬剤投与が認められていて、養成課程の中では筋注と皮下注の練習も正式カリキュラムとして組まれているんです。
え、ウソでしょ? 救急救命士が挿管ひとつするのに大騒ぎしているのに、と思ってしまいますが、ホントの話。
例えば船舶衛生管理者を正式に養成している「福井県立小浜水産高等学校」のウェブサイトにはこんな記述があります。
「授業だけではまかなえない部分は医師(内科医・外科医)に来ていただき直接講習を行ってもらっています。そこでは実際に注射を打ってみたりとか現場の医療の技術を学びます。」
あと「船舶衛生管理者講習を受講して」というレポートも参考になります。
トンデモ本!?くらいの驚き 「船舶衛生管理者教本」

止血法のページでは、結紮止血法なんてことまで書かれてます。「コッヘルなどの止血鉗子で出血している血管をはさみ、吸収糸で結紮止血する」とか、創傷処置として「縫合は止血の有力な手段であり、傷の治りも早く機能障害も少なくて済むので積極的に縫合閉鎖する」なんていって傷口の縫い方を図説してあったり。
で、実際に船舶衛生管理者免許を持っている知り合いによると、縫合はサメの皮を使って練習をしたんだって。
救急医療の本質の試金石とはならないのか?
こんな話を聞くと、日頃、医師法の縛りの強さを感じている我々医療従事者からすると、「そんなのアリ!?」と思いません?
船という他に手段がない特殊な状況下を想定した資格ですので、緊急避難という側面が大きく出ているのだと思いますが、それだったら無医村の離島で働く看護師だって同じだし、その場でやらなければ助からない処置(甲状輪状靱帯穿刺や緊張性気胸の脱気)を現場で救急隊員や救急救命士が行なうのも同列のことじゃないでしょうか?
救急救命士創設はあんなに反対されたのに
救急救命士資格創設のとき、そんな危険な行為を医師以外に認めることはできないと大きく反対され、非常に厳しい条件付きでようやく認可されましたが、当時、船の上では医療資格とは言えないようなとても簡単な研修と試験で取れる船舶衛生管理者には同じようなことが堂々と許されていたのです。
こうした既成事実があるのだから、緊急医療の在り方、必要性という点では前例があったと言えると思うのですが、私の知るかぎり、救急医療の業務拡大を巡ってこの船舶衛生管理者資格が俎上に上がったことはないと思います。(こうした指摘をするのはもしかしたらこのブログ記事が初かも)
そもそも船舶衛生管理者資格は国土交通大臣が発行するもので、医療行政を司る厚生労働省管轄ではありません。
縦割り行政でお互いに関知していないのかもしれませんが、看護師・救急救命士の業務拡大を巡って慎重論を唱えている厚生労働省は、船舶衛生管理者資格をどう考えているのでしょうか? 非常に気になるところです。
読めば読むほど目から鱗の船舶衛生管理者教本。
実はいまは インターネット上 でも読むことができます。興味がある方はぜひ目を通してみてくださいね。薬剤の項目なんか知識がある我々が読むと、ホントにこんなのを使わせていいの? と思うような薬がズラッと並んでいてめまいを起しそうになるくらい。
「船舶衛生管理者」資格を取るには…
看護師には許されていない創の縫合まで許されている船舶衛生管理者資格、これはぜひ取りたい! なんて思った人、いませんか?
実は看護師免許を持っていれば、国土交通大臣が行なう国家試験を受けなくても認定で船舶衛生管理者資格を取ることができるんです。さらに言えば看護師免許を持っていなくても「衛生看護学士」の資格でもOK。看護大を出て国家試験を落ちた人でも、放送大学+学位授与機構でもOKってこと。なんだか不思議ですよねぇ。
コメント
おはようございます.いつも貴重な情報ありがとうございます.
船舶衛生管理者ですか.初めて耳にしました.船には医師が同乗しているものとばかり思っていましたが,そうでもないケースがあるんですね.
改めて行政のいい加減さ,やる気のなさを感じます.看護師,救命士,歯科衛生士など,もっと自分で考えて行動できる権利が与えられるべきでしょう.
船舶衛生管理者,興味を持ちましたが,これを取得しても普段は使えないなと...船の上でしか使えないんですね.丘の上でも使えるとありがたいのですが.
話題はかなりずれ込みますが,先日,歯科衛生士学校の教科書を入手しました.手洗い,救急蘇生などの項目は時代錯誤も甚だしく,すぐに出版社にメールをしました.
執筆者は東京や大阪の名誉教授,学長ばかりなのですが,全て再校正を依頼してOK出てから今年の2月に再版したそうです.
出版社に責任があるわけではなく,大学の学長や名誉教授を冠する者がそういういい加減な事をしているから,医療の現場も改善されないんでしょう.我々若い世代(?)が,頑張って働きかけていくしかないと思います.
こんばんは。
船舶衛生管理者って初めて聞きました。
内容を見てびっくりすることばかりです!
船で働くならぜひ欲しい資格です。
mimimiさん、なおさん、コメントありがとうございました。
ねぇ、びっくりでしょ? 私も最初、知人から注射と縫合の練習をしてきたという話を聞いて、「そんなハズはない!」って身を乗り出してあれこれ聞いちゃいましたもん。テキストを見せてもらったり、インターネットで調べてみて、その人のいうことはウソじゃないってわかってからがタイヘン。それじゃ、いまのコメディカルの葛藤はいったい何なの? と軽いパニック状態でした。
私も申請すればきっと認定で船舶衛生管理者資格を取れるんでしょうけど、まあ意味はほとんどないですよね。客船にはきちんとした船医なりナースなりが乗っていますので、船舶衛生管理者が必要なのは漁船とかタンカーなど。専任で医療従事者をおく程の余裕はないので、船員のなかでこの免許を持った人を乗せておこうという程度のものなので、漁師に転向するとか言うのでないかぎりは使えない資格です。話のタネにはおもしろいかも知れませんが。余談になりますが、看護師免許を持っていれば、申請するだけでヘルパー1級の資格がもらえるそうです。これも実質的には意味はありませんけどね。
mimimiさん、教科書というのは総じて情報が古いですよね。看護師養成用の教科書も似たようなものです。私が学生時代にも、どう考えても古い内容や、今となっては間違いという箇所が多々ありましたもん。ひどいのになると「○○Aの電圧を掛けると…」なんて記述が教科書にあって、それがそのまま看護師国家試験の模擬試験に出題されていたり。おいおいと思ってこのときばかりは出版社に間違い指摘のメールを出しました。(Aは電流の単位で電圧じゃありません。これって小学校レベル?)
なおさん、なおさんもいろいろと不思議な免許を持っているそうで、いつかゆっくりそんなお話しも聞きたいなと思っています。インターネットを通して垣間見るだけですけど、なおさんって不思議な方ですよね(^^)
いやいや、不思議じゃないですよ。ごく普通の人です(笑)
また、ゆっくりお話ししたいですね。
いや~、だってmixiのプロフィールを見ても何をやっている方だかさっぱりわかりませんでしたもん。
病院に勤めているけど、消防・救急の受令機が鳴れば現場に駆けつけて、かと思えば逮捕術に長けるなんて話も。救命士以外のとある医療資格?? ナゾです(笑)
船舶衛生管理士の資格を取りました。
まず、国土交通省に連絡したところ、(当方は大阪ですので)近畿運輸局にまわされました。
平日に窓口にて申請するだけで発行してくれました。
①収入印紙2600円と②1ヶ月以内の本籍の判る住民票(または戸籍謄本・抄本でも可)③看護師免許原本。
これらを提示して申請できました。
この資格を取ったから…どうなるものでもありませんが…(笑)
こんばんは。
にぃやさんのコメントを見てびっくり。国土交通省経由で連絡して取れるんですか?
今度、やってみようっと。
ちなみに、今年は呼吸療法認定士の資格を取ろうと、受講申し込みをしたら、満員で書類が封も切らずに受け取り拒否で返ってきました。そんなのありですか?
かなり、ショックでした、トホホ・・・・
にぃやさん、申請されたんですね!
貴重な体験談、ありがとうございました。
ナースの免許があれば申請だけで取れる資格ってけっこうありますよね。
私の知り合いの看護師は民間救急でバイトをするので、「患者等搬送乗務員」の資格を書類提出だけで取ったって言ってました。
アンジーさん、呼吸療法認定士、きびしいんですね。私は最近、大学評価・学位授与機構に学士(看護学)の申請をしました。一部書類に不備があったのですが、親切に連絡をくれて、締切語でしたけど追加提出を受け付けてくれました。あとは6/15の試験に受かるだけ!
現在外航船の航海士をしている者です。色々誤解をされているみたいですが規模が小さい船に医者は乗らないのではなくて商船には大小かかわらず基本的に乗りません。少し前までは船医・無線通信士と乗船していたと聞きましたが現在は船長・航海士が船舶衛生管理者を持つことで兼務しています(海運会社の経済上のこともあると思いますが)。私が乗船している船は300メートル以上あるケープサイズですが船長が兼務しています。薬品の管理・補充は私の役割です。法律の甘さとかでは決してありません。