標準予防策キャンペーン中! 眼からの血液感染予防

4月から、オペ室の中で「標準予防策キャンペーン」を展開しています。

血液被曝が身近なオペ室ですが、うちのスタッフの意識は意外と低いのが現状。病院機能評価の受審にともなってゴーグル等の感染防護具は準備されているのですが、すっかり埃をかぶっています。

これまでも何回も感染症の有無に関係なくゴーグルをしましょうとか、器械洗いのときはガウンを着ましょうと言ってきたのですが、面倒くさいのか、理解していないのか、イマイチ浸透していませんでした。

4月に新人さんが入ってきて、スタンダード・プリコーションなんて話をしても、誰もそれを実践していないから説得力がないったらありゃしない。

そこでオペ室内の有志で立ち上がり、体液感染から医療者自身の身を守ろう! ということで勝手に啓蒙活動を始めました。

本当はきちんとした勉強会のような形にしたかったのですが、時間がなかったので月一回のカンファレンスで時間をもらって血液感染のリスクについて説明。

看護師だったら知ってて常識だというようなことでも、意外と上の人が「へぇ~」とか言っててちょっとびっくり。

特にむき出しの粘膜である「眼」からの感染についてはほとんど意識していないようでした。

そのとき効果を発揮したのが次のような新聞報道。

『C型肝炎 女医、手術中に感染 目に血液 出産で母子間でも』

(北海道新聞:2004年5月30日付)

大阪府内の病院で二○○二年、手術の助手を務めた二十代の女性外科医がC型肝炎ウイルス(HCV)に感染していたことが二十九日、分かった。感染患者の血液が目の粘膜に付着したためとみられ、外科医が翌年出産した赤ちゃんへの母子感染も確認された。

HCVは主に血液を介して感染し、慢性肝炎から肝硬変、肝がんに進行する恐れがある。針刺し事故のほか手術による医療従事者の感染リスクが指摘されてきたが、国内で表面化するケースは少なく、医療現場で対策の徹底が求められそうだ。

病院関係者によると、外科医は○二年六月、HCVに感染している乳がん患者の手術で助手を務めた際、患者の血液の飛沫(ひまつ)が誤って目に入った。感染防止用のゴーグルは着用していなかった。
(中略)
外科医は昨年四月に出産、赤ちゃんからもHCVが検出され、母子感染が確認された。母子感染は5%前後の確率で起きるとされ、感染を確実に予防する方法はない。
(後略)

子どもにも肝炎がうつったというのを聞いて「かわいそう~」という声があちこちから。効果があったようです。

次の日から、新人さんたちは器械出しのときゴーグル着用を義務づけることにして、プリセプターはもちろん私も含め理解あるスタッフによってゴーグル使用を強化。それに習って次第にゴーグル着用する人が多くなってきたのは言うまでもありません。

ナースがゴーグルをつけていると、Dr.たちの反応も違ってくるんですよね。「へぇ、じゃオレもつけようかな」なんて言って医師たちの間にもゴーグル着用の波が拡がってきています。

特に整形の医者なんて、ハンマーでガンガン骨を削ったりして日頃から顔に血が飛んだりは日常茶飯事。なんでゴーグルをしなかったのかというと、やはりまわりで誰もそうしていなかったということが大きいんだと思うんです。

いまだにゴーグルを使わないスタッフも多いですけど、少しづつ状勢が変っていっているのは感じています。

もうちょっとがんばると、そのうちゴーグルをしていない方がおかしいというくらいにまで持っていけそうです。(アメリカドラマのERなんかを見ていると、みんなゴーグルしてますよね。)

今はあまり強く言っていませんが、外回り業務でも抜管介助の場面やガーゼカウントなどゴーグル&ガウンが必要な場面はあります。

まずは器械出しでゴーグル使用率100%を目標にして、少しずつスタンダード・プリコーションを浸透させていきたいと思っています。

ついでに標準予防策に関する今後の展開というか将来像について少し。

アメリカでは、血液感染に関する有料の啓蒙セミナーのようなものがあり、職場としてスタッフに受講を義務づけている場合がよくあるそうです。

感染経路やその予防についてレクチャーのあと最後にテストというかアンケートのようなものがあります。

内容はというと「あなたは眼から病気に感染する可能性があることを知り、防護メガネの必要性を理解しましたか? はい/いいえ」みたいな感じ。これらの質問に答えて最後に署名をします。これを職場のスタッフ全員がやるわけです。

それで、いざ血液被曝事故が起きたとします。その際に職場が推奨している標準予防策を講じていなかった場合、血液感染予防講習の修了アンケートが持ち出されて、言われるんだそうです。

「あなたは標準予防策の必要性を理解したと宣言しているのに、それおを実行していなかった。それはあなたの責任だから会社は補償しない」

つまり自己責任の範囲になるので労働災害とは認められないのだとか。

今の日本はそこまでシビアではありませんが、標準予防策を知りながら実行しないというのはこういうことなんです。

手術室という日頃血液に触れることが多い特殊な環境で働いている皆さん。
血液なんてあまりに身近すぎて、感覚が鈍くなっているかもしれませんが、知識ある医療者の自己責任として、どうぞ自分の身を守ることを忘れないでくださいね。

【参考】標準予防策・・・汗を除くすべての体液(血液)は感染源であると考え、それらに触れる可能性がある場合は、ゴーグル、マスク、ガウン、ビニール手袋を着用しましょうという感染予防の考え方。対象患者が病原性ウィルスを持っているかいないかは一切関係ない。

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コメント

  1. いちご より:

    実は私自信も新人の頃、感染症患者の血液が、へガールで針を交換する際に目に入ってしまいました。その時は、外回りに言ったものの、おろしてもらえず、そんなものなのか?と思ってしまいましたが、その晩にこの記事を読んで慌てて、師長に報告して、内科に受診したことを思い出しました。
    うちも感染の認定看護士が、必死に訴えているものの、予防策についてはしっかり浸透していないような気がします。

  2. なお より:

    数年前に消防の装備品の展示会に行ったのですが、そこで救命士向け(消防車に乗る隊員も含む)の感染防止用ゴーグルの展示がありました。品はゴーグルというよりめがねに近い物でオーダーメイド品です。その時は、値段も高くて私的には「そこまで必要かな?」って思ってましたが、これが意外とヒットしたようで、結構売れてるそうです。血液感染、目は深く考えたことなかったです。
    私もヘルメットには防塵用ゴーグルをつけてるので現場で血液感染が予想される時は、するようにしてますが。
    めっつえんさんの内容見て感染に関する考え方を変えていかなければと思いました。
     
     

  3. 管理人 より:

    そうそう、いちごさん、持針器を開け閉めするとき、隙間に入った血液が飛ぶことって多いんですよね。出血の多い帝王切開とか、イスに座ってやる膣式の手術なんかも手元と眼もとが近いから、危ない!って思ったことが何度かあります。いちごさん、その後は検査結果等は大丈夫でした? 将来的に未知の感染症が発見される可能性もありますので、面倒くさがらずにきちんと病院に報告をあげておくことが重要だと思います。アスベスト訴訟のように後々になって、よかったと思うこともあるかもしれませんしね。
     
    なおさん、救命士向けのゴーグルって「ファイヤーマン・アイプロテクター」ですよね。よく雑誌「Jレスキュー」に広告が載ってるやつ。売れてるみたいですね。病院とか消防など職場単位での発注がけっこうきているとか。工業用に防護メガネは色々出てますが、マスクと合わせて使うと呼気で曇ってしまったりで、なかなかいいのがないんですよね。その点、アメリカのシューティング・グラスには曇り留めもきいた良いのがありますが、国産といえば「ファイヤーマン・アイプロテクター」が唯一なのかもしれませんね。

  4. mimimi より:

    ファイヤーマン・アイプロテクター,ネットで調べてビックリしました.福井市在住で鯖江市はすぐ隣なのですが,そんな近くで作られていたんですね.一つ欲しいです.
     
     歯科では防護メガネは必須です.口腔内,口腔外の両方で吸引器を使っていても,歯や金属を削った屑が飛び散ります.目にも入ります.普段は普通のメガネをしていますが,それでも防ぎきりません.
     
     麻酔の注射も危険で,注射した液が噴水のように飛んでくることがあります.口腔内への浸麻は非常に高い圧力が必要で,シリンジを思いっきり強く握って,プルプルと手をふるわせながら注入します.そのため,ちょっとした角度で刺入部から注射した液が噴き出し,術者の顔にまでかかります.怖いです.
     
     こちらでも手術時のゴーグルは手洗い場に多数配備され,全員使用するように呼びかけています.実習の学生に対しては,担当教官が周知するように義務づけられています.それでも未着用による事故が相次いでいます.私は大丈夫という,変な思いこみからでしょう.
     
     手術室の入室は帽子とマスクが必須となっていますが,ゴーグル着用も呼びかけるだけでなく必須項目とすべきですね.

  5. 管理人 より:

    mimimiさん、口腔外科の先生でいらしたんですね。ちっとも知りませんでした!
     
    うちの病院も歯科口腔外科の手術を行なっていますが、確かに歯科用の局麻は専用のホルダー入りでふつうのシリンジは使いませんよね。なんでだろうと思っていたけど、圧力の問題だったんですね。
     
    > 手術室の入室は帽子とマスクが必須となっていますが,ゴーグル着用も呼びかけるだけでなく必須項目とすべきですね.
     
    はい。まさにそこを徹底したいと思っています。以下、私が職場のスタッフ全員宛に話した内容の一部です。
    「血液や体液が、自分の体にある傷や粘膜に触れた場合に感染の危険があります。体表で剥き出しになっている粘膜というと、例えば口、鼻、眼などがあります。ところで皆さん、手術のときマスクはふつうにしていると思いますが、なぜだか考えたことありますか? 創に唾液などを飛ばさないため? それも正解ですが、もうひとつ重要なマスクの役割は、自分自身の粘膜(口、鼻)に血液が入らないように守っているんです。口と鼻はいつでも守っているのに、もうひとつの剥き出しの粘膜、眼は常に剥き出しっていうのは不自然ですよね?」
     
    ということで、なぜか日本では昔から抜け落ちているゴーグルの着用。これがマスクと同じレベルで捉えてほしいなと私は考えています。
     
     

  6. mimimi より:

     注文しちゃいました!ファイヤーマン・愛プロテクター・ネオ!!
     
     従来モデルとネオとで迷ったのですが,眼鏡を長時間使用するとツルが耳に当たって痛いので,バンドタイプのネオにしました.
     
     納期に時間がかかるらしく,週末の講習に間に合わないのが残念です.
     
     使用感が良ければ,従来モデルで度付きを追加注文しようかと思います(ネオは,度を入れる事が出来ないそうです)

  7. Caski より:

    う~ん。そんなことが報道されていたんですね。知らなかった。
    事の真偽についてはさておき、可能性はあるものなので、私もゴーグル大賛成です。
    以前このサイトで教えてもらった「ファントム」を愛用していましたが、最近手術中に曇ったのではずしてもらって、再度着けてもらおうとしたらつるの根元がおれてしまいました。新しいのはあるサイトで見つけたブラックジャック!曇り止めもついており、いいみたい。しかも財前教授もつかっておられるとか。ミーハーですみません。値段も2000円とお安い。ファントムより頑丈そうなので、外来(腟洗浄時に血しぶきがとぶことあり)でも使おうかなとおもっています。

  8. mimimi より:

     ファイヤーマン・アイプロテクター・ネオ購入して使ってみました.結論的には,ちょっと難有りでした...
     
     マスクをして使用するのが悪いのか,僕が水分多すぎるのか...曇らないんですが,防曇の限界を通り越してレンズ内面,下半分に水滴が付いたようになってしまうんです.
     
     密着度が高いのが仇になっているのかもしれません.マスクさえ併用しなければ,非常によい感じでお勧めです.

  9. 管理人 より:

    mimimiさん、防護メガネの使用レポート、ありがとうございました。もともと救急隊員がマスク着用の上で使用することを想定されているモノですが、そんな問題点もあったんですね。曇らないけど、水がたまる、、、うーん。。。
     
    Caskiさん、こんばんは。
    ブラックジャック、実は私も使ったことがあります。あれも曇り留め加工済みで医療現場で良さそうなんですが、残念ながら私の顔には合いませんでした。ちょっと大きすぎるというか、ずり落ちてきちゃうんです。調整ができれば良いんですけどねぇ。

  10. まるこ より:

    うちも国立から民間に委譲され、数々の大変革!!のなかで、いままでマスクだけだったから、眼のガ-ドつきのマスクをすることになれるのが大変でした。3年前は曇ったり、汗かいたり、ずれたり、、と不満続出。でも習慣とはおそろしや、もうないと器械出しなんてできません。
     
    ほかの施設から中途で就職してくる方も多く、SPを普通に実践してきている人ばかりだったことも、良かったのかな。古いスタッフが予防策をさぼったり、徹底できてないと、若い子も「???」という顔で、信用がた落ちですよね。
     
     

  11. metzenbaum@管理人 より:

    まるこさん、ゴーグルなしに器械出しなんてもうできない、という御意見、同感です。
     
    あれがあたりまえになってしまうと、ないと不安なんですよね。手袋なしに器械出しするのと同じ気持ち、といったら大げさかも知れませんが、安心して術野を見ることができないのを私も感じてます。
     
    ゴーグルに関しては、日本ではまだ認知されていないというか過剰装備みたいに思う人も多いので、やっぱり職場の雰囲気とかスタッフ間の意識によるところが大きいみたいですね。古いスタッフの悪影響、うちでも切実な問題です。でも中堅どころがこぞってゴーグル使ってますので、とりあえず新人さんたちへは今のところ大丈夫そうです。

  12. こぶ茶 より:

    はじめまして。血液感染の事について、お聞きしたい事があります。私のコメントにきづいたら、お返事いただけませんでしょうか?
     

  13. 管理人 より:

    こぶ茶さん、はじめまして。
    血液感染について、ということですが、どんな内容でしょうか?