レーシック集団感染-眼科業界の衛生水準の問題

今年2月から問題になっていた視力矯正手術レーシックでの集団感染事件ですが、ここ最近またマスコミで騒がれていますね。

ニュースキャスターや識者が「医者としてあり得ない」とか、いろいろコメントしていますが、手術室勤務の皆さんはどう感じてらっしゃいますか?

私の率直な感想は、ようやく表に出たんだな、という感じです。

これまで衛生管理が問題にならなかったのが不思議なくらい。

ただ、それは保険適用外のレーシックという「商売」に限った話ではないと思っています。

どちらかというと、外科医である眼科医全体の衛生観念の欠如が問題ではないかと思います。

皆さんの施設でも白内障の手術が行われていると思いますが、きちんと衛生管理されていますか?

1日に10件も20件も白内障手術をしていると、器具の処理がないがしろになったりしてませんか?

問題もあるのであまり詳しくは触れませんが、以前、私の関連していた施設では、眼科手術に使うディスポーザブルのメス(ナイフ)を使いまわしていました。

使い捨てのものを使いまわす時点で問題と言えば問題ですが、驚くのはその処理の仕方。ヒビテン(グルコン酸クロルヘキシジン)入りの超音波洗浄機で薬液消毒するだけなんです。

ご存じのように人の体の中に入る手術器具に関しては「滅菌」が必要とされています。

マスコミの方たちはこのあたりの医学的常識をご存じないので消毒と滅菌を混同しているコメントが見られましたが、メスなどの手術器具を「消毒」レベルで術野に出すというのは、ふつうはあり得ないことです。

想像してみてください。開腹術で床に落としてしまった鑷子をアルコール綿で拭いて術野に戻すなんて、まず考えられないですよね?

で、私はこの眼科の消毒(しかも中水準のグルコン酸クロルヘキシジン!)器具の使いまわしを問題と思ったので、職場内で問題提起して、眼科医にも掛け合いました。

そうしたら眼科医からは驚きの答えが。

「どこもこうやってるよ。うちが衛生水準が低いとは思わない。現に感染だって出てないし」

他科手術では消毒レベルの器械を出すなんてあり得ないし、ガイドライン的にも推奨されていないという点を伝えても、眼科の世界ではそれがあたりまえのようで、聞く耳を持たず。

そこで、本当に眼科業界ではそんな認識なのかを知るために、眼科手術の教科書をいくつも紐解いてみると、、、、

ホントにそうなんです。ほんの数年前に出版された眼科手術の手技書の中に、ディスポーザブルメスの消毒処理法を得々と解説しているページを発見。

本来は使い捨てであるが経済的にそういうわけにもいかないので、私はこのような方法を採っているというような個人署名の記事でした。

暗黙のうちにやっているならまだしも、ある意味不法行為とも言うべきことを堂々と活字にして、しかもそれが手術手技書という教科書へ記載している神経が驚きでした。

古い認識で書かれた昔の本なら、納得できますが、思わず何度も発行年を確認しちゃいました。

こうなると、うちの眼科医の頭が固いのではなく、眼科業界全体が日本の医療衛生水準から遅れていると考えざるを得なくなります。

この点は、他病院への内々のリサーチもしてみましたが、やっぱり他科と比べて衛生水準が低く、ナースたちもそれを問題に感じつつも、昔からの慣習と眼科医の言い分に流されて今まで来ているようです。

その後、私のいた病院では、病院の感染対策室を巻き込んで、どうにか改善にこぎ着けましたが、それまで2年近くかかっていますし、個人的にイヤな思いもいっぱいしました。幸い、問題が大きくなる前に手が打ててよかったと思っています。

そんなわけで、眼科自体、こんな水準ですから、いつか問題が起きるだろうなとは思っていました。それが今回たまたまレーシックというのは、ある意味残念です。

レーシックという保険診療外での出来事だと、それが眼科医全体の意識というよりはレーシックの問題として限局して捉えられてしまうからです。

この点、眼科手術の実態を知っている数少ない存在である手術室ナースの皆さん、どう考えますか?

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. カジ より:

    私の病院は公立病院というのもあるかもしれませんが…採算度外視ですね。
    眼科の先生は「感染」に神経をとがらせていて、リユースなんて考えられないかな。
    あ、でもオペガンだけは使い回ししていたのですが、ナースからの提言でやめてもらいました。

  2. よっきゅん より:

    新人の時に、メスの使いまわし、ビスコートの使いまわし(針の交換だけ)を問題と思い、提唱しました。
     
    耳を傾けてもらえなかったことを覚えています。
    新人のたわごと・・・・的な…

  3. より:

    そんなことが平気で行われてるなんて、閉口ものです。
     
    うちの病院では、使用器械が足りない場合は次の症例が始まるまで自分たちが器械を洗浄し、エルクレーブしてます。
    正直、こんな方法で大丈夫なのでしょうか?
     
    幸いなことに、ビーバーメスやビスコート、オペガンハイの使いまわしはないです。

  4. ぽぽぽ より:

    あれはオートクレーブの問題だったんと思いましたが。あなたの元の病院がひどいだけで眼科全部そんなものとはおもわないでください。USを薬液で洗浄すると薬液によっては角膜まっしろになり、失明状態になるのでやめたほうが無難です。新しい薬液に変わることもありますからね。

  5. いやいや より:

    はじめまして。
    確かにそんなことをしている所もありますが、
    そういうところバカリではありません。
    私のところは、人数分のセットを術式毎に揃えております。(手術数 25眼/日)足りない時のために、最初の3例分くらいをオートクレーブし、保管しております。
     

  6. ぽぽん より:

    私が勤務してた開業医では1日に7~8人程度の白内障の手術をしてましたけど最初の患者さんから最後の患者さんまでガウン、手袋、手術器具、ナイフ、ガーゼ、その他もろもろ基本的に一切交換することなく使い回してましたよ。ナイフなんか他人の血液が付着したまま次々と使う始末でした。ガーゼで拭いたりすると切れ味が悪くなると叱られるんです。まあガーゼで拭いても意味ないんですけどね。さすがに肝炎の患者さんは最後に手術してましたけど、あくまで肝炎の有無だけ事前に調べるだけでした。Drに問題提起しても開業医とは本当にワンマンで聞く耳なしで文句があるなら解雇みたいな感じでした。とにかく患者さんが気の毒でした。退職後、あまりに酷いと思い公的機関に告発したんですが指導が入っただけで何も変わりないみたいな話でした。

  7. らすぱ より:

    はじめまして。
    三年前から手術室に配属になってからずっと拝見させてもらってました。
    今回コメントをすることにしたのはある問題に答えが欲しかったからです。眼科の器材使い回しの問題はうちの術場でも何点かありまして、どうにかしなければと思っています。他にも知りたいことの一つに、器材の滅菌判定を待たずに使用している様な施設が実際どれくらいあるのだろうかということです。医師によってはそんなものは待たなくて良いといわれてしまいます。看護師サイドとしては必ず未判定ですが…との情報は伝えるようにしてはいますがいかがなものでしょうか。
    だいぶ時間がたっていますのでお返事いただけるかどうかダメもとでのコメントをさせていただきました。