以前に予告した 心電図基礎講座 の第二段です。
今回は心電図の基本となるサイナス・リズム(洞調律)と心臓の動きの基礎について取り上げます。
心臓の動きについて看護学校の1年生のときに生理学で勉強したはずですが、覚えていますか?
その頃は分厚い生理学の教科書の一部として漫然と勉強しただけであまり印象に残っていないかもしれませんね。でも心電図理解には絶対に必要ですから、学生時代の教科書を引っ張り出してきて、心臓の電気活動について一度復習しておくことをお薦めします。
現場で働きだしてからの勉強って、実務のため、必要に迫られて、という意味で学生時代の勉強とはだいぶ取り組み型が違ってくるものです。目的もはっきりしていますし、学生時代はわからなかったことでも、いま改めて教科書を読んでみると、すんなりと頭に入ってくることってありますよね。
下手に心電図の専門書を手にする前に、一度解剖生理学の教科書を熟読するといいですよ。
心臓の動きと機能
ざっとおさらい程度に書きますが、まずは心臓の動きについて。
心臓は電気信号によって動いています。肝心要の電気信号は、心臓の右側上方にある「洞房結節」と呼ばれている部分から発生します。(辞典的には、「右心房内大静脈開口部に存在するわずか1.5mm×0.5mmの心筋細胞の塊」だそうです)
自動的にいいタイミングで電気信号を発生させて、それに基づいて心臓がドクンドクンと動きます。言ってみれば洞房結節は音楽の指揮者のようなものです。
心臓の上の方にある洞房結節から発生した電気は、まずは心房に伝わって、心房をドクンと収縮させる、その後、さらに下の方に信号が流れていくと、今度は心室がドクンと収縮。つまり上から下に向かって流れる電気信号によって、心房⇒心室の順番で正しく心臓が動き、血液を送り出すポンプ機能が正しく働くわけです。
この正しい順番というのが意外と重要で、仮に心房より先に心室が収縮してしまったら、正しく血液を送り出すことができません。心室性期外収縮とか心室頻拍の場合がまさにこれです。なぜなら、そのとき心室内には血液が満たされていないから。つまり空打ち状態です。
まずは心房が動いて、血液を心室に送り込む、それで次に心室が動いてその血液を全身に送り出す、この順番が重要です。心室だけがバカバカと動いても、血液を全身に送り出すという機能は成立しないわけです。この辺の理解は今後重要になってきます。
(私事ですが、最近疲れのせいか、私、心室性期外収縮(PVC)が頻発しているんです。自分でモニター心電図を装着して、脈を取りながらみていると、期外収縮のときは脈が触れずに飛びます。いわゆる結滞。心室は収縮しているけど、送り出す血液がないから脈としては触れない。そんなことを身をもって体験しました)
心電図とは
心電図は心臓の興奮時に発生する電気信号を記録したもの。その興奮の結果、通常であれば心臓の動きが生じます。
QRS波 ⇒ 心室の興奮(動き)
(T波 ⇒ 次の拍動に備えて充電してる状態)
これだけは覚えておいてください。というより理解してしまってください。
心房の電気的興奮でP波が発生するとともに心房収縮、心室の興奮=QRS波が現れ心室の収縮が起きる。これを理解するヒントとして、私がいつも取り上げるのは解剖学の教科書にのっている心臓の断面図です。
よーく見ると心房と心室では、壁の厚さがぜんぜん違うのがわかると思います。心室が分厚い筋肉でできていて、心房は薄っぺら。全身に血液を送り出す心室は大きな力が必要ですから筋肉が発達しているのは当然のこと。心室は筋肉が厚いから発生する電気も強い、
そこでQRSのように高く記録されて、心房は薄いからP波みたいに小さく(低く)記録される。そんなふうに理解すると頭にしっかりと残るんじゃないでしょうか。
洞調律/サイナス・リズムという言葉について
正常な心臓の動きを何気なく洞調律とかサイナス・リズムと言いますが、その言葉の意味を考えてみたことがありますか?
洞調律の「洞」というのは、言わずとしれた洞房結節のこと。
洞房結節からの調律(リズム)に支配されて心臓が動いている状態ということです。つまり正常な心臓の動きです。心臓には自律能というのがあって、仮に洞房結節がイカれてしまった場合、心臓の他の部分から心臓を動かす電気信号が発生するようになります。
その場合は洞調律とは言いません。そうした状態が実際は結構ありがちなので、あえて洞調律、なんて言葉があるんですね。
現場でよく使われるサイナス・リズム sinus rhythm という言葉は、翻訳語である洞調律の語源です。サイナスというのは解剖学用語で、日本語では「洞」です。
この場合は洞房結節(sino-atrial node)のこと。この洞とは、必ずしも心臓の部位を表わす言葉ではなく、例えば副鼻腔のこともサイナスという表現をします。
形状を考えればまさに「洞」ですよね。副鼻腔の内視鏡手術のことをESSと略すことがありますが、Endoscopic Endonasal Sinus Surgeryの略だったりします。
コメント
最近、よくヘルツの手術につくことが多く、生の心臓をみると予想よりも激しく拍動していて、さすがに全身に血液をおくっているだけはあるな、と感心します。心電図は麻酔科が管理していてくれるし、身近にあるものなんですが、はっきりと理解していないのが現状かな・・。すこしは勉強もしてみるんですがテキスト的な文章では理解が難しい。今後、期待して読ませていただきます。もし、よかったら人工心肺とかヘルツの手術に関係することも今後書いていただければと思います。僕も、心電図これを機会に勉強しなおそうと思います。
れんさん、早速のコメントありがとうございました。心電図のことを文章で説明するのは無理がある、、、そうですよねぇ。私も一般の参考書の内容をかみ砕いて自分なりに工夫して文章化しているつもりなんですが、書き上げてみると結局は小難しい本の内容と変わらなかったり。。。やっぱりブログで心電図の話を取り上げるのは難しかったかなと思っています。
そのうちブログの本編でも取り上げようと思っているんですが、心電図の勉強をするなら、
「ハート先生の心電図教室」
http://www.cardiac.jp/
というウェブはお薦めです。なによりの特徴は心臓の動きを心電図と同期させてFlashムービーの動画で見せてくれるんです。心室細動のときはこんな動きをしているんだなとか直感的に分かってすごくいいです。(まあ、うちらは心外オペでホントの心室細動を見ることもできますけど)
部署内で開いている勉強会では、このフラッシュムービーを参考に各種不整脈を視覚的に理解してもらうようにしているんですが、なかなか好評です。
人工心肺については、今後私が勉強したいと思っているもののひとつです。今のところはMEさん任せで一切ノータッチ。でもぜひ理解したいですよね。その辺も時間はかかりそうですが、がんばってみます。
当研究会が作成しています「ハート先生の心電図教室-online」の動画教材の無断での取り込みは著作権侵害に該当する可能性があります。必ず、許可を得てください。
また、本記事の内容で「心電図は心臓が動くときの電気信号を記録したもの」という表現は間違っています。心電図は心臓の動きではなく、あくまでも電気的な活動です。電気的な活動によって心臓は動きます。
心臓病看護教育研究会さま
まさか本家本元の方が直接コメントを下さって驚きました。(アクセス解析してらしゃるんですね)貴サイトのクォリティーの高いコンテンツの無償公開、たいへん感謝しています。
電気活動に関してのご指摘ありがとうございました。正確性を期して文言の修正をさせていただきます。
Flash動画に関しては大げさな表現をしてしまいましたが、今後公的な場でコンテンツを使わせていただく機会がありましたら、その際には事前に確認のご連絡をさせていただこうと思います。