私が院内BLS/ACLS指導をやめた理由

床に落としたスプーンを平気で客に出すコックがいて、店長に文句を言ったら「それで病気になったという前例があれば問題ですが、そういう実態がないのであれば、私からは何も言えません。料理のプロがやっていることですから」と回答があったら、、、どうしますか?

これ、私が看護部長に言われたことです。

手術室看護師なら心あたりがあると思いますが、うちの病院でも眼科白内障手術でずさんな衛生管理が行われていました。

注射器の未滅菌使い回しは5年前に眼科部長に直訴してやめさせたのですが、現在なお残っていたのは超音波手術器具のハンドピースの未洗浄使い回しや、プレフィル注射器(ヒーロンとかオペガンとか)の一部使い回し。

これを大々的に問題提起して、即刻中止させろと病院上層部に迫ったのですが、リアルタイムな反応はありませんでした。

病院幹部が使い回しの事態を公式に知ってからも1ヶ月以上黙認し、それでも動きがないものだから、最後の強行手段として手術室看護師で眼科手術介助のボイコットに打って出ても、オペの中止判断は出されなかった。

結果的にはその2週間後に、ハンドピースのレンタルにこぎつけて問題は是正されたのですが、その準備ができるまでの1ヶ月半は、毎週20名近くの患者が「手術器具の未洗浄使い回し」で他人の体液に暴露するのを容認したのです。

手術室師長や感染対策委員会、感染認定ナースがあてにならないことはこれまでの動きでわかっていましたから、看護部長ならびに院長宛に当てた直訴状では、「明日も13人の新たな体液被曝者が発生します。見逃すのですか? 即刻オペ中止命令を出してください」と具体的すぎるくらいにいったにも関わらず無視。

対策はしていると言いつつも、結局、手術器具の数が整うまでの被曝は無視し、オペを中止しなかったのです。

その後、数週間して、看護部長と直接話す機会を得て、そこで話した内容をまとめると冒頭のようなやり取りになりました。

つまり、看護部長としては、患者に使って汚染された手術器具を、洗浄も滅菌もしないで他の患者に使うことが間違っているとは言い切れないと言ったのです。手術の全責任を持つ執刀医(=眼科部長)が自信をもってやっている以上、看護師としては口を挟めない、と。

現実的に院長も事態を知っていながら、即刻停止の命令は出さなかった。しかし問題と認識して、ハンドピースを患者ごとに交換できるようにと何千万単位での新規物品購入を指示したわけです。それほどの事態であっても、状態が整うまでのオペを中止しなかったどころか、制限もしなかった。

そんな医師の判断がある以上、看護部長はなにもいえないと。感染の事実があればどうにかできるけど、それもない、と(追跡調査してないだけでしょ!)

看護部長は紛れもなく看護師です。それも上り詰めたトップの看護師。

看護師が患者を守らなくて誰が患者を守る?

とかく医師は経営者になりがちですが、ナースはあくまでナース。

私は看護部長を最後の砦として期待していました。しかし、看護部長は止められなかった。

その看護部長がいった言い訳を、別の言い方すれば冒頭のとおりです。

「それで病気になったという前例があれば問題ですが、そういう実態がないのであれば、私からは何も言えません。専門家であるプロがやっていることですから」

誰がこんな屁理屈、納得しますか?

他人に使った手術器具を、そのまま別の人に使っていい道理があるなら、教えて欲しいです。
感染の前歴がなければいい?

だったら、どこかの大学で手違いから未滅菌のガーゼを1年にわたって使い続けていた事件がありました。
そのときは記者会見で謝罪しましたが、それでも感染報告はゼロとされています。

感染した、しない、そういう問題ではないでしょう。これは感染云々ではなく、医療者としての倫理の問題です。

なんで偉くなってしまうとこんな単純なことがわからず、あーだーこーだゴネるのか不思議。

単純に自分の家族にその手術を受けさせますか? と聞きたい。

そんなに正しいと思うならマスコミにリークしますので、記者会見で正当性を主張してください、と。

偉そなことを言っても医者には声を上げられない看護師の弱さ。なにが患者を守る、だ。笑わせるんじゃない! ヘソで茶を沸かすぜ!、な感じ。

この一件で、私は病院組織を完全に見限りました。

またそんな組織を信じて「業務命令だから」といって、のほほんと違法行為に加担している同僚にも幻滅。

目の前の患者すら守れていない病院組織が、末端の看護師を守るわけないでしょ。

そんなことにも気付けない、おめでたい人たち。

ということで、これまで院内でBLS教育やACLS教育を確立させて、病院の患者安全対策に私財と能力・時間を投げ売ってきた私ですが、すべてがバカらしくなりました。

BLSやACLSの院内教育は紛れもなく患者安全対策。患者を傷つけることに加担しろと業務命令するような病院で、患者安全をトクトクと語るなんて常軌を逸した人しかできません。。

1月のACLS/BLSまでは受講者が決まっていますので、予定通り開催しますが、以後、院内でのBLS/ACLS講習開催はやらないことに決めました。

現在は、眼科の使い回し問題は是正され、解決しています。

しかし病院が過去の過ちを認めて、総括し、再発防止に向けて動かなければ、私は病院への業務以外の貢献はいっさいやめます。

病院を見限りました。

あとは、自分へのメリットがなくなればいつでもここをやめます。

そんなスタンス。

追記:その後、不本意な異動命令を受け、拒否した結果2月から病院に来なくていいと言われ、1月一杯の退職が決まりました。1月9日に辞令を受け、1月10日に退職が決定というスピード退職でした。

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コメント

  1. より:

    手術室に新人から配属し
    もうすぐ2年がたつものです。
    新人の時から
    ブログ見させていただいて
    学ばせていただいてます。
    私のいる病院も
    先日形成外科で使用する
    バイポーラ
    をアルコール消毒で使いまわしてました。
    師長や先輩に言ってもなかなか
    購入にいたらず2ヶ月ほどの間
    とても悩んでいました。
    忙しく働いていると
    忘れがちになりますが
    患者中心の看護を考え、忘れずに
    いたいと思いコメントさせて
    いただきます。
     
    いつも本当に
    学ばせていだだいています。
    ありがとうございます。
     
     
     
     

  2. 管理人 より:

    その後、早くも病院を辞めることになりました。1月いっぱいで退職です。

  3. たた より:

    いつもここで勉強させてもらっています。ありがとうございます。私も同じ手術室で働き、同じような悩みを抱えていました。管理人さんも言ってたけど、まさに自分の家族がそこのベットに寝れるのかって本当に言いたいですよね。これからも、応援しています。頑張ってください

  4. holly より:

    私も とあるブログを更新する日々ですが、管理人さんのサイトも時々お邪魔していました。暫く振りに記事を読んで、「退職!?」と驚きコメントさせて頂いてます。
     
    病院にとっての安全管理って …管理人さんのいた施設では、どのような解釈だったのでしょうね?私の所属施設でも器械器具は十分な数ではありませんから、本来は使用が望まれないハイスピード滅菌や フラッシュ滅菌で対応せざるを得ない現実もあります。そこが悩みどころなんて…逆に恵まれた悩みだったのか?と錯覚してしまいそうです。確かに眼科医師や皮膚科・形成外科医師達は、比較的原価計算を始め収益の事をよく口にしています。しかし手術野の清潔度を考慮すれば眼科領域では特に、使用後の器具を洗浄滅菌することなく別の患者に使い回しするのは、現代医療では許されないでしょう。チップやスリーブを滅菌し直すなら なぜ一緒にハンドピースもしないのでしょう?それでも10件/日の手術は比較的多い方でしょうから、そこにきて器具は購入しないけどオペ件数は維持したいなんて、まともじゃありません!少ない投資で多くの収益を得ようとする意図が感じられます。粘稠剤の使い回しもそうです。保険では1本/人の請求をしてるのでしょうか?
    「術後感染を発症していない」なんて…確かに体力がある症例しか定時手術はしませんが、「発症しないから関連性が認められない」みたいな発想…ちょっと考えられませんね。偶然起こさなかっただけでしょう。
     
    ナースも理想と現実が違う事くらい承知してます。ですが、正義感を持って組織に立ち向かっても、悲しいかな病院上層部にはじき出されるだけです。管理人さんは本当に勇気ある行動をとったと思いますが、あなたのような人が辞職してしまっては相手の思うツボなのです。
    今回のこと、同じ立場にある職種が故に とても残念に思います。新たな活躍の場が、管理人さんにとって平穏なスタートである事を切に願って止みません。

  5. Kei より:

    私も病院で看護師をしています。
     
    文章を読んで、「そんな病院辞めてよかったのでは?」と思いました。
     
    私も自分の病院の看護部長の事は嫌いで、よく喧嘩をしますが、その病院の看護部長はモラルが欠落していると思います。
     
    看護師という以前の問題ですよね。
     
    組織にはガッカリさせられる事が多いですが、自分の半径10メートル以内では間違ったことをしないよう(後輩にさせないよう)主張していっています。
     
    何だか不思議ですが、改めて勇気をもらった気がします。
     
    ありがとうございました。
    これからもブログ頑張って下さいね!
    (私は根性無しで、ブログを書いたり書かなかったり・・・汗)

  6. orthopedics より:

    いつもtwitterでお世話になっております。SUD(single use devese)の使い回しやらですが、やっても人件費やら考えると経済的には利益が出ないんですけどね。。事故になったときに病院責任を問われた場合のリスクも計算できないんでしょう。
    でもこの問題、いつかオープンになると思いますので、日の目を見ることがくるだろうと思います。
    日本では小林 寬伊先生が有名ですね。
    http://www.thcu.ac.jp/faculty/journal/pdf/vol1_n1/111_saito.pdf
     

  7. 手術師長 より:

    ありえない
    少なくてもうちの病院ではこんなのはありません
    看護師がしっかりしなくてはいけないと思います

  8. 774 より:

    粘弾剤はともかくハンドピースを1日の手術件数分購入している病院なんてほとんどないと思うけどね
    病院経営も商売 理想で腹はふくれない