ナースのプレゼンテーション~「看護研究」を考える

昨日参加してきた日本環境感染学会は、感染対策にかかわるすべての職種のための総合学会。

演題発表は、医師・看護師だけでなく、歯科医師や理学療法士、薬剤師、臨床検査技師、製薬会社社員など、他職種が交じり合っていてとても面白かったです。

いろいろな職種の人のプレゼンテーションを見ていて気づいたのは、ナースは良くも悪くも質が均一化されている点。

みんな似通った発表の仕方をするんですよね。

・顔を上げずに原稿を読む
・書き言葉
・何度も練習したスムーズな朗読
・きっちり練習しすぎるゆえに、一回とちると固まったり、臨機応変に対応できない
・「○○はスライド・抄録をご参照ください」という言い回し

そう、「看護研究」でお作法をみっちり教え込まれた感がありあり、なんです。

病院内で課される「看護研究」で鍛えられたせいか、また所属でみっちり練習する習慣からか、看護師の口演の仕方で、ひどいものはあまりありません。

でも反対に、すばらしいプレゼンテーションもあまりありませんでした。

良くも悪くもそこそこのところに均一化されている感じ。

発表という課されたタスク(苦行?)をそつなくこなすことに精一杯で機械的。もしくは優等生的。伝えよう、という思いがあまり感じられない発表と言ったらいったら言いすぎかな。

もうちょっと気楽に「遊び」があってもいいのになと思いながら聞いていました。

最近、世の中のパワーポイント・プレゼンテーションといえば、大きな画像と最小限の文字、そして平面の空間美を意識した Zen(禅)プレゼンテーション が流行りです。

スライドは、話を引き立てるための添え物であり、文字を羅列・箇条書きし読ませるためのものではない、というような哲学を含んでいます。

Appleのスティーブ・ジョブズがそのはしりみたいですが、そんな目を引く、話に引き込まれるような発表、なかったですね。(医師ではたまにバリバリにZENの手法を使う人を見かけます)

せめて、原稿朗読をやめて、顔を上げてくれるといいのですが。

すべては「看護研究」の弊害なんだと思います。

さっきから私が「看護研究」をカッコ付きで書いているのには意味があります。

いわゆる「看護研究」は「看護研究」であって、学問的に純粋な研究とは違います(と、言い切っちゃいましょう!?)。

何かの命題や問題、テーマに対して明らかにしたい点があって自発的に取り組むのが研究ですが、臨床看護師が行っている看護研究の大半は違いますよね?

まず「今年はあなたが看研(カンケン)当番よ」と上司に言われて、研究をしろと業務命令が下ります。そして無理やりテーマをひねり出して行わされる苦行。

そんなナース業界独特の伝統文化が「看護研究」もしくは「カンケン」です。

臨床ナースに課される「看護研究」は中身はあまり求められていません。

求められているのは、お作法に忠実であるか、に尽きます。

だから、やたらとルールが厳しい。

「看護研究」って嫌な思い出になっている人が多いんじゃないでしょうか。

理不尽に思いながらも、やらされて、叩き込まれるお作法。

それが他職種の発表の中でもひときわ目立つナースのプレゼンテーションに現れている気がしました。

研究論文の書き方とか、セオリーはありますが、研究の進め方や発表の仕方なんてカチッとした決まりはありません。

お作法なんかよりは、「あなたの伝えたいことは何ですか?」が重要だと思うのですが、「看護研究」での”研究ごっこ”が悪く作用しているように思えてなりません。

本来は、研究を行う姿勢をつくり、医療職者の生涯学習として研究を行っていけるような能力開発(教育システム)がいわゆる「看護研究」だと思うのですが、そこから解き放たれずに結局「看護研究」のまま終わってしまっているのが現状なのでは?

もっと気軽に「研究」に取り組める姿勢を作らなければ意味がありません。逆効果。

倫理規定云々で縛られているのもナースだけのような印象がありました。

業務改善のために行っている調査・研究に対して、職員(同僚)への同意なんてとる必要あるんですかね?

身内に対するアンケートひとつで、同意書云々や倫理的配慮を問題にしているのはおそらくナースだけです。

お作法を勉強するのが目的の「看護研究」でやらされたことをそのまま踏襲しているのだと思いますが。

倫理的配慮は医療職者にとっては大切なことです。

しかし、その歴史的経緯を考えれば、配慮すべき対象とか場面というのはわかりそうなものですが、杓子定規になっている感が否めません。

反対に、倫理的観点からそれはどうなの、という発表も他職種ではありました。それを考えれば倫理基準が高いことは誇るべきですが、もうちょっと柔軟に考えればいいのにと思ってしまいます。

つまり看護師は「看護研究」という文化に毒されて、研究の意味を履き違えている可能性大。

つまり研究以前の問題として、見直す必要がありそう。

研究って何なんでしょうね?

ちょっと刺激的に書いてしまいましたが、なにかご意見がある方は、西條 剛央 (著) 『研究以前のモンダイ 看護研究で迷わないための超入門講座』 (こちらも参考にどうぞ) をご一読の上、メッセージをいただけるとうれしいです。

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コメント

  1. ラパロスコープ より:

    いつも楽しく拝見しております。
     
    私も2年ほど前に手術医学会に参加し、医師や臨床工学士の発表と比べて同じようなことを感じました。
     
    看護師の世界って「変に真面目」すぎるところがあると常々感じます。
     
    遊び心をもって・・・とフィッシュ哲学を初めても「変に真面目」が入って季節の行事のものを手作りしたり、写真飾ったり・・・
    あなたたちは幼稚園の先生や保育士ですか?みたいな感じで・・・
    それをスタッフはやらされてる感で作ってたりしてwフィッシュになっていないww
     
    この世界、もっといろいろ柔軟な思考になるといいですね。
    そうすればもしかしたら楽しい職場で看護師の離職率が低下するかもwww
     
     
     

  2. ままなーす より:

    日本環境感染学会、私も発表はありませんでしたが、参加いたしました。
    手術医学会も含めて、管理人さんと同じように私も感じました。
    私の所属する看護部は、学会発表の前にいろいろチェックをします。いや、してくださいます。
    やっぱり「今までの例」にこだわるところはあるかもしれません。
     
     
    管理人さんお勧めの文献、早速注文しました。読んでみます。
     
    プレゼンテーションは、聞いてくださる方々への「プレゼント」ですから、
    おしゃべり原稿も含めて、しゃべり方、
    パワーポイントの効果的な使い方を身につけて発表したいものです。
    でも、人前で質問することにも苦手な私たちナース。
     
    これって、職業柄なんでしょうか。
     
    臨床ナースは、なかなか「伝える」言葉を持たないのでしょうか。
    普段の「申し送り」は立派なプレゼンテーションだって言いますよ。
    きっとみんなやれば上手なはずですよ!がんばりましょう。
     

  3. いとう より:

    こんばんわ!
     
    全ての記事をとてもありがたく、拝読させていただいています!
     
    私も、ORやってます!
    是非、消化器についても詳しくご教授していただきたく、よろしくお願いいたします。

  4. yuki より:

    こんばんは。
    学会からだいぶ時間が経ってのコメントですが…
     
    私も日本環境感染学会に発表者として参加しました。
    管理人さんのご意見、おっしゃる通りです…。
    私の場合は修士論文の内容を発表したのですが、学会発表慣れしていないのと、憧れの先生が座長をされていたのとで、ガッチガチに緊張して棒読みの発表になってしまいました。
    また発表の機会があれば、もっと分かりやすく人を引き付ける発表にしていきたいです。
    ではでは。