ナースにも必須のファーストエイド

去年の暮れに開催された日本救急看護学会では、「ファーストエイド」というキーワードで盛り上がっていたようです。

ファーストエイド First Aid という単語、皆さん、馴染みはありますか?

日本語でいえば応急手当とか応急処置。

急病やケガなど、いざというときにその場でとっさに対応するための術といいましょうか。

看護師たるもの、仕事以外の日常生活や道ばたなどでも、困った人を見つけたら助けてあげられる存在であるべき! ということで、日本救急医学会が万を持してリリースしたのが「ナース向けファーストエイドコース」。

立派なテキストとDVD、e-learningコースにインストラクター制度。

ファーストエイドすべての看護職のための緊急応急処置
↑救急看護学会ファーストエイドコースのテキストwith DVD
「ファーストエイドすべての看護職のための緊急応急処置」

かなり気合いを入れた取り組みとお見受けしました。

救急看護学会が、まさか「ファーストエイド」を持ってくるとは意外でした。

というのは、私は American Heart Association のファーストエイド・インストラクターとして活動しているのですが、日本の看護師ってファーストエイドには関心が薄い気がしていたからです。

医療者向けのBLSくらいはそれなりに興味を持ってくれるのですが、ファーストエイドコースはほとんどアウト of 眼中。

それはインストラクターでも同じです。

AHA の BLS Instructor は、ファーストエイド・インストラクター資格も内包しているので、AHAのファーストエイドコースを教えてカード発行ができるのですが、日本に数千人はいると思われるナースのBLSインストラクターでファーストエイドコースを開催している人はおそらく数人程度。

インストラクターであっても、アメリカ心臓協会AHAがファーストエイドコースを持っていることすら知らない人が多いのが現状かも。(インストラクターコースではきちんと説明されているはずなんですけどね)

看護師がファーストエイドにイマイチ関心が薄いのは、おそらくそれが市民向けだからです。

医療従事者が行う医療行為とは一線を画する、誰でもできる臨時応急の手当て、ということですから当然と言えば当然。

ナースが勉強するほどのものではないという印象が強いのかも知れません。

じゃあ、ナースだったら応急処置なんて朝飯前?

どうでしょう? 自信を持って、ハイ、と答えることができる人、どれくらいいるでしょう?

まあ、院内BLSを教えている人とか、AHA-BLS Instructorだったら、思わず手を挙げてしまうかも知れませんが、非心停止での適切な対応ができますか? 腹臥位で意識のないの傷病者を適切に評価できますか? と聞いたらどうでしょう?

ファーストエイドで重要なポイントは、心停止以外のあらゆる緊急事態への対応が含まれるという点です。

心停止の対応は簡単です。やることは決まっているから。

それ以外の対応、いかがでしょう?

少なくとも看護学校では、応急手当なんて授業・実習はなかったし、臨床ではバリバリ急変対応しているかもしれないけど、なにも道具がなくて、仲間のナースや医師もいない町中で一人で何ができるか、という訓練は受けてないし、そんな思考パターンすら持ち合わせていない。

病院外で鼻血を出した人に、ボスミンガーゼを! なんて言っても、ただの使えない人です。

ですから、ナースであっても意図的に講習を受けたり、トレーニングを積まないと、実は病院以外で適切な対応をすることは、むずかしい、という現実を受け入れる必要があります。

市民レベルとバカにすることなかれ!

その程度すら看護師は教わる機会がふつうはないのです。で、そんな業界事情は世間では知られておらず、普通の人は、ナースと言ったら、テレビドラマみたいにかっこよく応急処置をしてくれる人で、そんなのは誰でも朝飯前と信じています。

ということで、意外な盲点だった、「ファーストエイド」という領域に救急看護学会が目を付けてくれたのは、快挙と思います。

ナースのためのファーストエイド、ということで、興味を持ってくれる人が増えるはず。

ファーストエイドって、実は医療従事者にとっても魅力的なはず。私はそう信じています。

ファーストエイドは、医療資源がない現場で自分の身ひとつと、その場にあるものを応用して、傷病者をアセスメントして、状況が悪化しないように最低限の処置を行い、医療機関へ引き継ぐ方法を考え、行動すること。

これって、医療職としては本質的な能力だと思います。

一切の診療器具や薬剤などに頼らず、自分の五感だけでどこまで判断し、行動できるか?

最低限そのことを知っている上で、オプションとして、例えば聴診器があったら、血圧計があったら、などを積み重ねていく、というのが本来だと思うんです。

ただすべての基礎となる身ひとつで、というのが、いまの高度に発達した医療の中では忘れられています。

それが、ファーストエイドには残っている気がします。

日本のファーストエイドは、Basicしかありませんが、北米の Advanced First Aid や、Wilderness First Aid(野外・僻地救急法)では、かなり突っ込んだフィジカルアセスメントまでも教えています。(胸に直接耳を当てての聴診なんてはじめて体験しました!)

きっと、途上国での医療では、日本の病院医療より、そういった高度なファーストエイドの方が実践的で使えるんだろうなという気がします。

文化や地域・国に左右されない本質的な医療人としてのスキル。

私はそんなものに憧れてしまうんですよね。(きっと若い頃のアウトドア歴や海外での体験が大きいのだと思います)

さて、そんな私なりのファーストエイド観から見た日本救急看護学会のファーストエイドコースについて、次回は書いてみようと思います。

最終的には、ファーストエイドに興味がある人はどうやってそれを勉強したらいいか、という話もしたいなと思っています。

ファーストエイド、実は相当奥が深いです。

出口の見えない鬱蒼としたファーストエイドの世界へようこそ、ということで今回はおしまい。

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コメント

  1. kaatann* より:

    とても気になっていました。
    私はしばらくどころか凄くブランクの長いナースで復帰したものの体調を崩してまたただの人です。
    でも、春からの復職に向けてただいま勉強中。
     
    出版社のホームページをチェックしていたらこの本に興味を持ちました。
     
    前向きに購入を検討していますが、どうなのでしょう???
     
    ご意見とても参考になります!
     

  2. アダチ より:

    久しぶりにブログを拝見しています。
    近くでJNTECが開催されると聞いて、学会ページを見たら、「ファーストエイドコース」を発見。
    さっそく、テキストをセブンネットで頼んで、届きまちです。
     
    看護師といえ、いざというとき何ができるか?病院を出たら何もできない、そんな状況を避けたいです。
     
    最近見つけた本で「アトラス応急処置マニュアル第9版」は写真が豊富で、見やすくお勧めです。
    始めに、自分自身の心がけから始まり、傷病者を評価することも書かれていて、JPTECの評価の仕方と同じでした。
     
    対応の始まりは共通なんですね。