ドラマ「医龍」から~ 臨床工学技士って何者?

ここのところ、本業以外の活動が忙しくてなかなかこちらに時間が取れていないのですが、昨日放映されていたドラマ「医龍」の感想を含めて、臨床工学技士さんをテーマに少しばかり。

前々回あたりから、医龍の中で医療スタッフとしての 臨床工学技士 にスポットが当っていますね。テレビドラマでは初じゃないでしょうか?

臨床工学技士 ―病院の中では通称「MEさん」なんて呼ばれていますが、彼らは国家資格を持ったれっきとした医療スタッフの一員です。

医用工学ということで Medical Engineering を略して、ME(ミー、じゃないです。エム・イーと読みます)といってますが、英名は Clinical Engineering Technologist なので、正確に言うならCE(シー・イー)という方が正しいです。

さて、そのMEさんこと臨床工学技士はなにをする職種かというと、

「厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて、医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作及び保守点検を行うことを業とする者」(臨床工学技士法)

です。

で、生命維持管理装置とはなにかというと、これまた臨床工学技士法では、

「人の呼吸、循環又は代謝の機能の一部を代替し、又は補助することが目的とされている装置」

と定義されています。

いちばんの代表格は心臓手術のときに使う人工心肺装置(体外循環)の操作でしょうか。おそらくMEさんにとっては花形の仕事に相当すると思います。

その他、人工透析装置の操作、オペ室でいうなら自己血回収装置(セルセーバー)や筋電図モニターのセッティングなどでお世話になってます。

あとは心カテ室でアブレーション/除細動器の操作や、人工呼吸器の保守点検などなど、医療機器のメンテナンスやトラブル解決に力を発揮するのがMEさんたちです。

◆ 手術に立ち会う臨床工学技士の仕事 ― 人工心肺操作

今回のドラマ医龍の中では、MEさんが手術に立ち会って電気メスのセッティングをしていましたね。

オペ室事情を知らない方はサラッと流し見したかもしれませんが、オペ室のナースにとってはかなり苦笑いな場面じゃありませんでした?

なんでアッペ(虫垂炎)の手術にわざわざMEが立ち会って、電気メスの設定なんかするの??

「落ち着いて設定しなおせ!」

なんて、なんだか小難しい操作が必要な印象を与える場面設定でしたが、電気メスの設定は、ただダイヤルをまわして出力(ワット数)を合わせるだけ。普通はMEさんを呼ぶまでもなく外回り業務の看護師が日常的にやっていることです。

「40-40」という設定値を言っていましたが、アレはまあ確かに妥当な数字。切開モード40W、凝固モード40Wという意味で、開腹手術などではおおむねこんな出力でやってます。(電メスの切開・凝固ってなに? という方は過去記事 『意外と知らない電気メスの話』 を見てみてくださいね。)

医師から特別な指示がなければ、診療科や手術部位にもよりますけど、普通は30~40Wくらいに設定しておくかな。

臨床工学技士にとって花形の仕事は、なんといっても人工心肺の操作。看護師免許・准看護師免許でも人工心肺の操作は行えますが、こればかりはさすがに手を出そうとは思いません。

病院によっては、専門の臨床工学技士を使わずに医師が人工心肺をまわすところもあるようですが、ナースが操作するってところもあるのかな?(学会認定資格である 「体外循環技術認定士」 の受験条件には、経験3年以上の看護師・准看護師も含まれているので、きっとあるのでしょう)

私の施設でのMEさんの仕事ぶりを見ていると、心臓血管外科医たちから絶大な信頼を得ているんだなということを感じます。人工心肺を流れる血液から血液ガスデータを取って、その数字を見ながら電解質の補正をするのは臨床工学技士の仕事。

これは医師の指示の下、ということになっていますが、包括的指示とでも言うのでしょうか。実際のところ、臨床工学技士の判断で、薬のアンプルを切って、ときには用意していた輸血を人工心肺に戻したり。

気心知れた優秀なMEさんの存在なしには、人工心肺をまわす心臓手術は行えないんだなぁというのを強く感じます。

心臓手術の予定や詳細は、手術室より先にME科の方に連絡がいきますし、なぜかオペ終了時には、MEさんたちには心外Dr.からのおごりで夕食の出前が届いていて、器械出し、外回りのナースにはなんにもナシ(笑)

まあ、ナースは20名以上いて、器械出しの休憩交代もありますが、MEさんはほんの数名。心臓手術になると、休憩も取らずにずっと人工心肺の前に張り付いていますからね。負担がぜんぜん違うのは重々承知。

臨床工学技士という国家資格は恐らく医療資格の中ではいちばん新しい職種で、まだ出来たばかり。数が少なくていつでも人手不足。

緊急CABG(心臓バイパス手術)とか、緊急透析・心カテがあるために夜間・休日も on call 体制があるようですが、ほんの数人でまわすから月の半分近くは on call という劣悪な環境のなか、よくがんばっているなと思います。

そのせいか、最近、またMEさんがひとり辞めてしまったそうです。

医師の勤務体制も異常だけど、MEさんも含めて病院の勤務体制、どうにかならないもんでしょうか。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. Rico より:

    おはようございます。
    めっつぇんばーむさんのこちらのエントリーを拝見すると、
    ドラマ「医龍」が数倍おもしろくなりますよね~。
    以前はドラマの存在を知らず、先週インターネット配信されているPart1を観ました。
    おもしろいですね~・・。
    医龍を観て、このブログを読むとドラマの裏側がよくわかって本当におもしろいです。
    ありがとうございます。

  2. RYO より:

    管理人様はじめまして。
    総合病院でMEとして勤務しています。
    なかなかとりあげられることのない臨床工学技士についての記載ありがとうこざいます。
    原作、医龍1で”臨床工学士”なんて書かれるのを見たりするたびに一般的な知名度が
    低いんだなと思ってしまいます。(実際低いのですが・・・)
    私自身も人工心肺がMEの花形であると考え、学生時代から人工心肺のできる病院への
    就職を熱望していました。
     
    MEは卒業後7割以上は人工透析に関する業務についています。心臓外科のある
    総合病院(特に都市部)への就職は倍率が高く、仮に就職できたとしても希望する
    部署に配属されずに人工心肺にたずさわることができない場合もあります。
    私は運良く就職1年目から人工心肺に携われる病院に就職することができ、また上司の
    移動などもあり3年目以降は院内の人工心肺関連の業務の責任者をまかさせています。
     
    人工心肺を担当するME(Perfusionistと呼ばれます)は麻酔科医とも連携し、OP中の
    循環・代謝をコントロールする責任を背負っています。
    私はこの仕事に誇りを持っています。MEの花形と呼ばれる業務につくことが
    できてうれしく思っていますが透析、呼吸、不整脈、ME機器管理などはそれれに奥が深く
    専門性のあるものです。
     
    しかし全国的にMEの勤務環境は良いとは言えないと思います。
    私も1年の半分はon call待機ですが待機料は1円も貰えません。管理人様はOPナースの
    勤務体制、労働条件についても書かれていましたね。
    1年の半分がOnCallというこの病院のMEの労働条件をどう考えますか?
    ちなみに500床規模の自治体病院です。緊急呼出がそれほど多いわけではありませんが、
    待機は待機ですから土日も行動は制限されます。
    長々と失礼しました。
     
     
     
     

  3. tomo より:

    ウチの病院では『CE』と呼ばれてます。
    もちろん人工心肺だけでなく、ICUのrespiraterのおせわや、PCPSの患者様など、いろいろ活躍してます。よく思うのが、心外のopeは本当にチームワークが大切という事。麻酔科、CE、Ns、心外Drが協力し合わないとうまくいかないと思います。大体、腕のいい医者が執刀だと手術はうまくいくと思われがちですが、ORにいると『チームワーク』が1番大切だと本当によく分かります。全員が声を掛け合ってお互いに確認して助け合ってopeは成り立つ物。
    そう考えると『すごいなぁ』と思いますねぇ。だからORNsがすきなのかも。
     
    あ、余談ですが、友人から『医龍』1の方を借りてみています。うぅ・・・・微妙ですねぇ。さすがに最初はみんなぎこちない・・・・大学病院ってあんななんですか???
    でも、SNがgraftを取るって・・・・すごい。確かにあの変はどうすごいのか、ORNsや麻酔科、心外Dr、CEにしか分からないかも・・・

  4. 管理人 より:

    Ricoさん、感想をありがとうございました。そういっていただけると書いただけの価値があるというものです。絶対あのドラマ、いちばん楽しんでいるのは心外オペに関わる医療スタッフだと思う。少しでもその見所を伝えていかれればと思っています(^^)
     
    RYOさん、はじめまして。
    臨床工学技士さんからの書き込みは初めてかも知れません。どうもありがとうございます。人工心肺を扱える病院への就職は倍率が高いとは知りませんでした。
     
    ご指摘のMEさんの労働環境については、以前から私も気になっていました。
    院内BLS普及チームで仲良くしているMEさんがいるのですが、最初彼女からon call手当ては一切ないという話を聞いてびっくりしました。そのMEさんは労働組合のコメディカル代表をしていましたので、組合に掛けるようにアドバイスしたのですが、まだ行動はしていないようです。
     
    私がNs.の労働条件として書いたことは、当然そのままMEさんにも当てはまります。正式に待機という勤務が命じられているのであれば、本来はそれは自宅にいようと「労働」ですのでふだん通りの日当+休日出勤手当等が付かなければいけないものです。たいていの場合は、そこまでの賃金負担を避けるために待機料という法的には根拠がない手当てを出すことで、お茶を濁しているわけですが、それすらない、しかもあまりに回数が多すぎるというのはひどい話です。
     
    Ns.の場合、看護部という扱いで概ね労働基準法は守られていますが、MEさんは診療部扱いでしょうから、そうなると医師たちの労働条件と並べられてしまうんですよね。医師の労働条件は違法の塊ですので、それを前にすると説得力が弱くなってしまうという部分もあるかもしれません。でも出るところに出れば勝算はある話ですので、行動するだけの価値はあるかも知れませんよ。
     
    tomoさん、チームワークというお話し、確かにそうだよなと思いました。ドラマのテーマもまさにそこですけど、心臓手術ほどチームワークが問題になってくる手術はないかも知れませんね。やっぱり手術室看護を究めるなら、心臓手術なのかな。

  5. RYO(臨床工学技士) より:

    管理人様、お返事ありがとうございました。労働条件改善について病院と話し合いを
    持ちたいと考えています。
     
    また別の話なのですが、今オペ室でサンダルの「クロックス」流行ってませんか?
    クロックスがもたらす静電気によって医療機器が誤作動する可能性があるため
    海外の病院で使用禁止になるところもあるとか。院内の医療機器安全管理責任者
    としては気になる内容です。
    何か情報をお持ちでしたらよろしくお願いします。
     
    グーグルでクロックス、医療機器などでヒットするかと思います。
    BBCにも載ってます。
    http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6979400.stm

  6. 管理人 より:

    私もその記事、以前に読みました。
    うちのオペ室でも例のサンダルがはやり始めていた時期だったので、早速師長にプリントして渡したのですが、海外での報道記事だったので、あまりピンときていなかった様子。
     
    滑りにくくていいよ、なんてスタッフは言ってますが、静電気を溜め込みやすいんでしょうね。もうちょっと冬場になったら、あのサンダルを使って蛍光灯を点灯させる実験でもやったら面白そうですね。
     
    ということで、すみません、Ryoさんがご存知以上のことは何も知りません。なにせ情報ソースがまったく同じですので(^^)

  7. 姉さん より:

    めっつぇんばーむさん
    お久しぶりです。
    医龍2 今回は私も毎週しっかり見ています。(笑)
    自分が携わった先生達が監修をしているせいもあり、手術シーンはなかなか個人的に見ていて面白味があります。
    MEさんの存在は、手術室看護師にとっては、本当にありがたい存在ですよね。
    私がまだひよっこ(2~3年目)だった頃は、MEなんて職種はあるのかないのか?位の時期だったので、pumpを回すのはそのキットを販売しているメーカーさん(もちろん資格持ち)でした。だから、心臓の手術となると、M○R○さんとかB○x○tarさんとか誰が誰なのか?ってくらい人がいました(笑)
     
    以前は、MEさんの数も少なかったので、pump以外は、すべてORNs.が管理していましたが、MEさんの数が多くなってくれたおかげで、いい意味で頼りっきり(悪い意味でも)。
    今は、看護師も心肺を回す資格を取りにいける時代ですけど、国内にどれだけそれを持ってる人がいるのかなぁ?っと興味もあります。
     
    今回の医龍2なかなか見逃せませんね。
    (ある意味勉強にもなるし)

  8. 管理人 より:

    姉さん、こんばんは。知り合いが関わっているとなると、思い入れもずいぶん違ってくるんじゃないでしょうか? ちょっとまえにうちのオペ室でロケがあって同僚が映画に出演していたことがあって、そんなことをふと思いました。
     
    以前は業者さんがポンプをまわしていたんですね。それは知りませんでした。
    来年4月からは業者立ち会いが規制されて、困る病院もまだあったりするのかな。
    MEさん、心外のオペのときは必ず来てくれますが、病院全体としては人員不足。本当はオペ室のME機器全部の管理をお願いしたいところですが、そこまではいってません。心外絡みでon callがあるというあの待遇の悪さがある以上、今後も潤うのは期待できないかなぁ。

  9. nori_co より:

    うちの病院はたぶんすごく恵まれています。
    透析ベッド30床で、心臓血管外科の手術もしている病院ですが、臨床工学技士は4人体制です。当然院内のME機器の管理は彼らが行っています。
    いくつあるかわからないほどたくさんの輸液ポンプやシリンジポンプ、人工呼吸器も常に6台くらいはスタンバイしていて、緊急カテ時にPCPSが使われるときは必ず呼ばれるし、重症者のCHDFなんかも割と頻繁に行われていますし・・・。
    うちでは心臓血管外科の緊急手術は行えないのですが、透析に関しては市の基幹病院ですから、まあ呼び出しは結構ありますね。

  10. みぃたん より:

    初めまして。
    私は総合病院でMEとして働いています。うちも人工心肺、透析、心臓カテーテル、呼吸器、ペースメーカー…と高気圧酸素以外の業務を日々行っています。
    待機もあり、実はつい最近の土曜日も透析と臨時手術で13時間勤務してきました。が、代休はありません。
    こんな生活を3年続けていて、ストレスによる突発性難聴、原因不明の頭痛発作、首の痛みなど、様々な不調が起こりました。
     
    業務体制のずさんな管理にも頭を悩ませています。なお、女性1人の職場でなかなか相談もできません。
    他の施設での体制等聞きたくて書き込ませていただきました。