病院に勤務する看護師は医師の指示がないとAEDを使えない!?

(この項目の内容は再考中です。必ずコメント欄を併せてご覧下さい。なお訂正として「看護師―「臨時応急の手当」として指示なくてもAED使用可能」を7/6アップしました。)

先日、ブログを見てくれた人からメールを頂きました。

AEDの使用に関する質問(意見?)なんですが、要約するとこんな感じ。

「一般の人がAEDを使うときは、指示なんて待たなくてもすぐ使えるけど、看護師や救命士が勤務中に使うときは医師の指示があるまで待たなくてはいけない。病院によっては”医師の指示がなくてもすぐ使用していい”という約束が決められているところもあるけど、私の施設では何も指示がない。つまりAEDはあっても手動式除細動器と同じで意味がないのでは?」

この話を聞いて皆さんはどう思われますか?

私も最初、「勘違いですよ~」なんて軽くお返事しようと思ったのですが、よく考えてみたら、決して間違いではなく、けっこう深刻な問題をはらんでいることに気付きました。

実はAEDの使用に関しては、一般市民と医療従事者では条件が違っているという事実をご存じだったでしょうか?

◆ 医師以外がAEDを使用するときの条件

a.一般市民は無条件にを使って構わない。

b.医療従事者は下記の条件の満たさないかぎり、医師法違反を問われる可能性がある。

  1. 医師等を探す努力をしても見つからない等、医師等による速やかな対応を得ることが困難であること
  2. 使用者が、対象者の意識、呼吸がないことを確認していること
  3. 使用者が、使用に必要な講習を受けていること
  4. 使用されるが医療用具として薬事法上の承認を得ていること
参考 ⇒ 厚生労働省医政局長通達(PDF)
非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用について

例えば病院の廊下で人が倒れたとします。たまたま居合わせたお見舞いの人だったら、目の前の人のことだけを考えてすぐにを装着してショックをかけて構いません。でも、看護師の場合は、まずは医師を捜すことを考えなくちゃいけない。まっさきに自分でショックをかけようとは考えちゃいけないんですね。

それに市民であれば講習を受けていなくてもOKですが、医療従事者は講習を受けていないかぎり、を使用することはできません。

おかしな話だと思いません?

第一発見者が看護師だと除細動のタイミングが遅れる可能性があるなんて。それだったらなんの制限もない市民に発見してもらった方がいいという気すらしてきますよね。

◆ 医師法の問題 ― 反復継続の意志

こんなチグハグな現状を生んでいる元凶は医師法17条の「医師でなければ、医業をなしてはならない」という縛りにあります。『医業』とはなにかというと「医行為を、反復継続する意思をもって行うこと」です。

この「反復継続の意志」というのがくせ者で、例えば素人が緊急避難的に医療行為を行なっても、それは「反復継続の意志」がありませんから、医師法違反にはなりません。(これが医療行為である除細動(使用)を一般人が行なっても構わないとされる根拠となっています。)

ところが、業務に携わっている看護師の場合、部署によってはCPAは日常的。を使う機会も一生に一度あるかないかという市民レベルとは大きく異なります。

それゆえに「反復継続の意志」があると見なされてしまいます。つまり、医師法に抵触してしまう。これを回避するためにつけられた条件が、先ほどの4つの項目になるわけです。

市民にとっては緊急避難だけど、看護師/救急救命士にとっては「業務」なので、市民と同列レベルの免責とはならない、ということなんだと思います。

法的な理屈はわかったけど、実際の運用を考えたら、ちょっとねぇ。。。

そこで出てくるのが冒頭の質問であった「”医師の指示がなくてもすぐ使用していい”という約束事」、つまり包括的指示という話になるんだと思います。

病院内の取り決めとして、CPAを発見した場合、看護師は通報しつつを使用して早期除細動を行なう、というようなガイドラインや業務基準を作っておけば医師法違反の問題を回避できます。

もともと手動式除細動器であっても医師の指示(包括的指示であっても)があれば看護師は診療補助として行なうことができるわけですから、に関しても包括的指示さえあれば、OK。

そう考えると、病院にを設置するということは、単にを購入して設置しましたという話では済まないということになります。

病院内の業務基準の改定を行ない、使用のガイドラインの明文化、それにコメディカルスタッフに対して講習を義務づける必要が出てきます。

ご存じ、除細動は1分遅れる毎に7-10%の蘇生率が低下すると言われています。ですので、厚生労働省が出している条件にある「医師等による速やかな対応を得ることが困難」というのの「速やか」の解釈も1分1秒レベルと考えれば、その場に医師がいなければ看護師が使って構わないという理解もできます。

こうした解釈で運用している病院もあるのかもしれませんが、より確実性を期すためには包括的指示の明文化とスタッフへの講習(自前で教えてもいいし、外部のコースを受けさせてもいいし)の徹底が望ましい、ということなんだと思います。

それにしても「反復継続の意志」という医師法の解釈。やっかいです。これについては在宅看護での医療行為や救急救命士法制定のときも大きな障壁となってきました。

素人ならやってもいいけど、資格を持っていたらダメだよという不思議な結論。もっと抜本的に法体系の見直しをするとか、どうにかならないんでしょうか?

◆ AED包括指示のない病院勤務の場合

包括的指示が存在しない病院に勤務している場合はどうしたらいいのでしょう?

看護師個人としてきちんと講習を受けていればを使用してもいいと思いますが、グレーゾーンな部分が残っているという点はきちんと認識しておいた方がいいと思います。

例えば、ショックボタンを押す前に「医師の到着が間に合わなかったため、やむを得ず自分がショックボタンを押します」みたいな宣言を、周りの人に聞こえるようにしておくこととか。

バカバカしい話だとは思いますけど、自分を守るためにも少し考えたほうがいい部分かもしれません。

なお、看護師や救命士であっても非番にバイスタンダーとして現場に遭遇した場合は「業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に対し応急の対応

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コメント

  1. mimimi より:

     そうですか?救命士は1992年に医師の直接指示のもとでAEDを使えるようになり,2003年には直接指示がなくても各自の判断で使えるようになったはずです.
     病院内などの場合は,数分以内に除細動を行わなければ追訴される可能性があると言われています.
     
     その人の質問メールは,一部勘違いもあると思いますが,ご指摘のように隠れた問題は大きいですね.
     
     日本の法律はブログに記載されているように矛盾点が多すぎます.また,裁判官によっても全く正反対の解釈をするのが日本です.
     
     過去に北海道で歯科医師による救急研修の問題がありましたが,この時の裁判で厚生労働省の役人は,厚労省が各都道府県に行った通知と正反対の陳述を行いました.
     
     今回の問題,法的な解釈,拡大解釈などはさておき,勤務している病院としてのガイドラインの再確認,策定が重要課題でしょう.そして医師会は,こういった矛盾を無くすべく国会に働きかけてもらいたいものです.

  2. 管理人 より:

    mimimiさん、ご指摘ありがとうございました。本稿は医師以外の医療従事者などといいつつも、病院の看護師を想定して書いていたため不正確になってしまいました。
     
    救命士にかぎって言えばおっしゃるように段階的に認可されてきたいきさつがありましたね。フライトアテンダントにできることが何で救命士に認められないんだ! とかね。
     
    ガイドライン的にも院内では3分以内に除細動を、なんて言われていますが、それに対して法律の方は、まず医者を捜せとかなんとも悠長な、という感じがしますよね。でも法は法(通達ですけど)。困ったものです。
     
    看護界の重鎮、日野原重明氏は「法律をどんどん破って既成事実を作れ!」と看護師に呼びかけています。そんな話を思い出しました。

  3. mimimi より:

     “既成事実を作れ!!”って,良いですね.残念ながら歯科医師がそれをすると,すぐに裁判でたたかれて,厚労省のガイドラインで活動の枠を狭くされてしまいます.
     
     今の医療関係の法律は,患者のためになっていませんし,現場のためにもなっていませんね.医師不足だといいながら,医師しか行ってはいけない事が多すぎたり.
     
     やはりAEDに関しても既成事実を増やし,病院自体のガイドラインも確立して自分たちと患者を守る必要がありますね.

  4. santa より:

    http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/171109-a.pdf
    で言ってる一定頻度云々は非医療従事者の話ですから、看護師は関係ないのでは? 客室乗務員とかライフセーバー、施設・学校などのスタッフを想定しているはずです。元になってる報告書(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/07/s0701-3.html)にも、「これまでは医師又は医師の指示を受けた看護師若しくは救急救命士がその専門的知識に基づき行うものとされ、これらの者以外の者(以下「非医療従事者」と総称する。)の使用については、反復継続する意思をもって行うことは認められていなかった。」と書いてあります。つまり、そもそも看護師はもともと医師の指示があれば反復継続してもOKで、4条件の対象とはなっていません。ですから、問題となるのは医師の指示だけ。
     
    ついでに言えば、「なお、4条件の順番は重要性の順を示すものでなく、自動体外式除細動器の使用に当たっての時間的な先後を示すものでないことに関係者は留意すべきである。」とも報告書には書いてあるので、まずドクターを捜すというのは読み違いです。
     
     

  5. 管理人 より:

    santaさん、貴重な情報ありがとうございます! 今晩、もう一度確認して修正を入れます。本当はすぐに手直ししたいところですが、ごめんなさい!
     

  6. santa より:

    googleさんに聞いたところ、http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/03/n7-kaitou.pdf
    というのが見つかりました。かなり古い(2003年6月)のですが、厚生労働省の見解としては、院内責任者が定めた緊急対応指示書による包括的指示があれば医師の立ち会いも電話連絡もなしで医療施設内で看護師がAEDを使うことはOKのようです。
     
    勤務している医療施設内で看護師が行った行為は「よきサマリア人」扱いにはならないと思いますので、このへんが一般人より厳しくなるのは致し方ないかと。
     

  7. 管理人 より:

    報告書と通達をプリントアウトしてじっくりと読み直しました。santaさんのご指摘通り、誤解していました。「業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に対し応急の対応をすることが期待、想定されている者」というのを、「バイスタンダーとしての一般市民」以上の立場の人すべてと解釈していたのが間違いでした。
     
    santaさんのおっしゃるように、あくまで非医療従事者のうち「一定頻度で対応が期待されている人」ということなんですね。看護師や救命士も含まれると誤解して書いていました。この点はきちんと修正するつもりです。(スイマセン、もう少しお時間ください)
     
    でも、医療者に関するこのようなAED使用ガイドラインは厚生労働省から出されているのかな? というのが新たな疑問として生まれます。この点、もう少し調べてみようと思いますが、もしきちんとした通達がないのであれば、医師法の免責条件としては例の4つの条件が看護師にも適用されると考えるのは不自然ではないと思います。
     
    反対にいうなら、この4つが適用でないなら、看護師は医師の指示がなければ、一切AEDは使えないというもっと非現実的な事実が浮かんできそうです。つまり医師を捜す努力等をしても、医師による包括的指示等がなければ使ってはダメ、ということになってしまいそうです。(「私は立場上AEDを使えませんから、一般市民であるあなたが操作してください!」なんて別の人にお願いしなくちゃいけない?)
     
    この点でsantaさんが見つけてくれた厚生労働省への質問状は非常に参考になるのですが、こうした重要な問題についてはもう少しきちんとしたアナウンスがされていて然るべきな気がします。
     
    一定頻度市民(?)の条件と看護師条件の関連性、もう少し調べてみます。
     
    ところでちょっと話はかわりますが、「業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に対し応急の対応をすることが期待、想定されている者」というと、当然学校のスタッフも含まれるはずですよね? 養護教員はもちろん体育を教える教員や、本来ならすべての教員。なのに北海道教員組合のあの発言、日本の事情すら把握していないんでしょうね。

  8. santa より:

    非医療従事者のガイドラインは、業として医療行為を行っている勤務中の看護師には適用できないと考えるのが自然でしょう。
     
    AEDの利用が医療行為だというところは確かなので、医師の指示なしで看護師が医療行為を行う際のよりどころは保健師助産師看護師法第37条の「臨時応急の手当」です。このへん、googleさんに聞いたところ、http://www2.kpu-m.ac.jp/~ccn/topics/topics/w0582.html
    というMLのアーカイブが見つかりました。ここの #5440によると、手動除細動器がケースバイケース、AEDの利用については臨時応急の手当に該当というのが厚生労働省の回答のようです。

  9. 管理人 より:

    santaさん、詳しい情報、ありがとうございました。
     
    私の方でも新たにまとめた情報を、
    http://or-nurse.seesaa.net/article/46872448
    にアップしました。