医療専門用語のナゾ

今日は医療の専門用語を巡る雑談をひとつ。
 
どんな職業でもその業界だけで通じる専門用語があると思いますが、医療界ともなると専門用語のオンパレード。
 
そういえば私が初めて職場に配属になったとき、カンファレンスで飛交う言葉のほとんどが理解できなかったのを思い出します。看護学生としてある程度専門用語は知っているのにオペ室のカンファレンスには太刀打ちできませんでした。
 
でも、まあだからこそ、飲み屋なんかで仲間と仕事の話なんかも堂々とできるんですけどね。
 
さて、医療用語の専門用語と一言にいってもいろいろあります。
 
まずは単に日本語として難しい言葉。
 
例えば疣贅(ゆうぜい)なんてどうでしょう? 日常語でいえば「イボ」のことですけど、医学専門用語ではこんなにもったいぶった言い方をするんですね。実際、手術申し込み伝票では「疣贅切除」なんてたいそうに書かれてきます。
 
医学用語が難しいのは、西洋から医学が入ってきたときに昔のお医者さんががんばって日本語化しちゃったからなんでしょうね。絶対日常では使わないような言葉や漢字が平気で生き残っているのが医学界。古典の世界に自分が入り込んでしまったカンカク、興味深いです。
 
次は外国語。
 
いまの医療現場で使われる世界共通語は英語です。昔はドイツ語が幅を効かせていたようですが、今はほとんどが英語にとって変わりました。ところが日本でカタカナとして使われている単語に限っては英語/ドイツ語のチャンポンで非常に複雑です。
 
同じ言葉でもドイツ語読みする場合と英語読みをする場合があって、例えば内視鏡手術で使うトロッカー trocar、これは英語読み由来のカタカナ語ですが、ドイツ語風にトロカール trocart という言い方もいまだに使われています。カタカナで聞いてしまうと、まったく別物のようにも思えますが、原語のスペルに立ち返ってみれば、trocar と trocart。あ、同じ由来なんだなと気付ける場合もあります。
 
もうひとつ例を挙げると、皮膚接着剤にダーマボンドという商品があります。ボンドというのは接着剤なんだなとわかるにしてもダーマっていったいなんなんでしょう? 実はこれは採皮に使うデルマトームのデルマと同じ。診療科でデルマといえば皮膚科(dermatology)ですよね。dermaをデルマと読むかダーマと読むか。前者がドイツ語、後者が英語なのかなと思うのですが、ウラは取ってません。
 
ということで、手術室で何気なく使っているカタカナ語の原語を調べてみると、いろいろな気付きがあっておもしろいですよ。
 
つづいて、略語にまつわる話と、正式な用語ではない独特の言い回しについて書こうと思ったのですが、それは次回のお楽しみに、ということで。


 

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コメント

  1. mimimi より:

     専門用語というか,業界用語ですね!麻酔にいた時も,他科の略語が全く分からずに苦労しました.医学略語辞典にも載っていないような造語みたいなのがいっぱいまりますね.
     
     医科系はみなさん何とかなるようなのですが,全く理解出来ないのが歯科系だそうです.医学用語というよりもレセプト請求するための保険用語を多用するため,辞書にも記載されず,保険が大幅に改訂されると,用語も変わってしまいます.
     歯科のカルテはこの保険用語を使って記載するように指導されていますので,学生さんを含めて歯科でない人には全く理解出来ないようです.変な世界ですね.
     
     デルマトームですが,当科ではダーマトームと呼んでいます.英語読みっぽいですね.テルモが販売している人工真皮テルダーミスも,テルモが作ったダーム(皮膚)に由来していますね.そう考えると,商品名をいろいろ考えるのも面白いかもしれません.

  2. shisley より:

    その昔、外科の医局にOPの週間予定がホワイトボードに記入されていて、
    医局(大学関連)によって同じ病名でも略語に違いがあったのを覚えています。
     
    ある大学では、胃がん⇒GCAと書いてあったり
    またある医局では胃がん⇒MKとあったり。。
     
    医療の略語(業界用語)辞典なんかが売られていたりするから、
    業界的に略語(業界用語)はかなり氾濫しているのでしょうね。。
     

  3. 直美 より:

    初めまして。卒業以来ず~っとOpe室一筋です。
    Ope室大好き人間なのですが、ここまで来ると、怖くて他に出られないのも現実です。
    あちこち転々としていますが、4月からまた、新しい職場へ移動しました。
    ここでの略語がまた、聞いた事のないものばっかり。
    特に整形に力を入れているので、整形は専門的な略語だらけ。
    “MED”なんの事かと思えば、内視鏡下の椎間板ヘルニアOpe。
    前の病院では、“Endo-(Scopic-)Love”。ついてみて初めて知る、といった感じです。
    略語から逸れるかも知れませんが、
    腹腔鏡下胆嚢摘出術は、どう言いますか?
    今までの病院では全て違う呼び方で、
    “ラパコレ“”ラパ胆”“LSC“”Lap-C”…。
    病院同士、お互い通じない場合もありますね。

  4. 管理人 より:

    mimimiさん、いつもコメントありがとうございます。この1週間はとにかく忙しくてお返事遅くなってごめんなさい。
     
    テルダーミスも皮膚由来だったんですね。てっきりテルダームというひとつの単語でもあるのかなと思っていましたが、まさかテルモだったとは(笑) 薬品名は笑っちゃうものが多いですよね。小野製薬のオノアクトとかオノン。テレビで宣伝している市販薬に関しては、ハルンケア、ダマリン、サカムケアとセンスのない名前のオンパレード。おもしろいですよね。
     
    shisleyさん、医療業界用語の複雑さはホントわけわからないです。内部にいる人たちでも混乱気味なのに外部から関わる方たちにとってはホント悩みの種なんでしょうね。

  5. 管理人 より:

    直美さん、お返事遅くなってしまって申しわけありません。
    あちこちのオペ室を点々としてらっしゃるんですね。私も怖くてオペ室以外には行かれなそうです。新しい病院でも希望を出せばオペ室に配属されるものなんですか??
     
    さて略語の方言の話ですが、いろいろありますよね。
    MED(MicroEndscopic Discectomy)はうちもやってますが、やっぱりMEDと言ってますね。ただのマイクロラブとあまり創の大きさも変わらず、創の断面はマイクロラブの方がきれいなんで、私にはメリットがイマイチよく分かってません(笑)
     
    腹腔鏡下の胆摘もいろいろな言い方されてますね。うちではLCと略すのが一般的です。医者によっていろんな言い方をしますので、ラパコレでも通じます。でもLSCとかLap-Cなんて言われたらうちのスタッフはわからないだろうなぁ。

  6. Taichan より:

    初めてコメントします。アメリカで臨床医をしております。私は日本に居る時はカルテを含め全て日本語に統一していました。これからカルテ開示の時代、外国語を入れると厄介なことになります。
    一番の問題は医療スタッフ同士のコミュニケーションに問題が生じる可能性があります。これがもっとも危惧されます。

  7. Taichan より:

    貴殿のブログをリンクに加えさせて頂きました。ところで慢性硬膜下血腫のこと慢硬って略しますか?

  8. 管理人 より:

    Taichanさん、はじめまして。コメント&リンク、どうもありがとうございました! スタッフ同士のコミュニケーションの問題、現場では多々起きているのに大きな取り組みとしての改善策はちっとも出されませんよね。日本語に統一という対応すばらしいですね。
     
    うちのDr.の中にはオペ記事を英語で書く人がひとりだけいます。正式文書としては問題ないと思うのですが、少なくとも他の医療スタッフと情報を共有するという意識はあまりないのだなと感じてしまいます。読めない方が悪いんだと言われてしまえば反論はできないのですが、もうちょっと現状を受けとめてほしいなというか…
     
    介護保険の世界では、医療と福祉で言葉が違うという点が大きな問題となっているようです。この場合はナースー介護士間問題が顕著なようですが。
     
    たかだか言葉ではありますが、それが培われてきた土壌・文化を考えると一筋ならでは行かない問題のようですね。
     
    慢性硬膜下血腫、うちでは急性も慢性もサブドラという言い方でしか略してません。オペ室的には術式の方を略して「穿頭」ということが多いですけど。