AEDに関する不適切な報道―毎日新聞

よくここでも書き込みして下さるmimimiさんのブログで知ったのですが、AED(自動体外式除細動器)を巡ってちょっと気になる新聞報道がありました。
 
2007年6月12日付けで報道された毎日新聞の、『北教組:AEDの「一方的導入」に反対』という記事です。
 

北教組:AEDの「一方的導入」に反対

 駅や公共施設などへのAED(自動体外式除細動器)設置が進む中、北海道教職員組合(北教組、中山和則委員長)が学校への「一方的導入」に反対することを12、13両日、札幌市北区で開く定期大会の議案に盛り込む。北教組は「一律に反対するわけではないが、学校の態勢づくりや講習会も必要になる。救急態勢の整備を急ぐことが先決」と説明しているが、疑問の声も出そうだ。
(中略)
 AEDは8歳未満の子供に対する使用が禁止されているため、小学校低学年には使えないほか、水の事故で胸部が濡れている時は有効でなく、「学校現場でAEDに過大な期待をするのは問題」というのが北教組の主張。しかし、スポーツの部活動や試合中に心停止で死亡したり、AEDにより救命されたケースも全国的に報告されており、道教委は導入を進める構えだ。【千々部一好】

 
いつだったか愛地球博で市民による初のAED救命報道があって以来、マスコミではAEDはおおむね好意的に取り上げられてきました。
 
それが今回、ネガティブな報道を目の当たりにして、悲しい思いでいっぱいです。
 
なにが悲しいって、
 
この報道が誤った情報に基づいて書かれている
 
からです。
 
・「AEDは8歳未満の子供に対する使用が禁止されている」
・「水の事故で胸部が濡れている時は有効でな」い

 
どう思いますか? 「北教組の主張」として紹介されていますが、文脈からすると新聞報道としても、この主張は「正しい」と肯定しているように見えますよね?
 
しかし実際は、前者は明らかな間違い、後者は不正確な表現と言わざるを得ません。8歳未満の子どもにもAEDは使えますし、胸部が濡れていても水分をふき取ることでAEDは有効だからです。
 
以下、日本版ガイドライン2005からの引用です。
 

『AEDは小児にも使用できる。(中略)2006年6月時点において、薬事法上の承認を受けた小児用パッドは2種類。(中略)なお、1歳未満の乳児に対してはAEDを使用しない。』

(救急蘇生法の指針 市民用・解説編, P.31)

 
『傷病者の胸が濡れている場合:乾いた布やタオルで胸を拭いてから電極パッドを貼り付けてください』

(救急蘇生法の指針 市民用・解説編, P.36)

 
確かにAEDが日本で認可された直後の2004年には8歳未満の小児へのAEDの使用は認可されていませんでした。しかしその後小児へのAED使用が認められ、少なくとも去年2006年6月に出版された日本版公式ガイドライン2005である「救急蘇生法の指針―市民用・解説編」には、この点はしっかりと明記されています。それからもう1年以上経つというのに、、、
 
「北教組の主張」は古い誤った認識に基づいているわけですが、その点、「今」を伝えるはずの新聞報道で是正せず、ただ伝聞形式に流すというのはあまりに無責任だと思います。果たしてこの記者は「北教組の主張」が間違っていることを認識した上で、この記事を書いたのでしょうか?
 
結果的に、毎日新聞という権威ある報道機関が、
 
「AEDは8歳未満の子供に対する使用が禁止されている」
「水の事故で胸部が濡れている時は有効でな」い
 
という誤った認識を世間に流布したことになり、これは日本の地域の救命率向上(AED普及)の大きな障害となりかねない由々しき事態だと考えます。
 
今後、場合によっては訂正記事が出されてもおかしくないレベルだと思うのですが、どうでしょうか。
しばらく動向を見守っていきたいと思います。
 



【追記】
読売新聞社のサイトから、新たに関連記事を見つけました。
 

『北教組、学校への「AED一方的導入反対」(北海道)』
 止まった心臓に電気ショックを与えて、不整脈を正常な状態に戻す医療器具AED(自動体外式除細動器)の学校への配置について、北海道教職員組合(北教組)は12日、札幌市で始まった定期大会で「一方的な導入に反対する」との方針を表明した。AEDは公共施設などでの設置が広がり、救命活動に生かされたケースが全国で報告されている。学校への設置推進は、道教委が進めるばかりでなく、北教組が支持する民主党も4月の札幌市議選で公約に掲げていた。導入反対方針には組合員からも疑問の声が上がっている。
 
 北教組議案では、反対理由について<1>配備より、学校の安全体制づくりなどが主体<2>AEDは「医療行為」であり「有効性、必要性、安全性」に疑問がある――とし、「講習の強要など様々な問題が生じている」ことを理由に「一方的導入に反対していかなければならない」と記されていた。
 
 定期大会では、代議員から「命にかかわる問題で、(設置反対に)市民の理解は得られないのでは」との質問があった。北教組執行部は「全面的に否定はしていない。AEDは万能ではなく、一般的には成人向けで有効性に疑問がある。まれに火災を起こす」などとし、「導入については慎重な対応が必要だ」と答弁した。
 
 北教組の方針について、学校への設置を公約した民主党札幌の小野正美幹事長は「現場には様々な課題があり、(政党と支持団体が)すべて一緒の考えでなければならないということはない」とコメントした。
 
 道医療政策課によると、道内に設置されているAEDは昨年11月現在、1305か所で1581台。前年同期の321台から約5倍に増えるなど、急速に普及が進んでいる。
 
 道の医療政策などの検討機関である「総合保健医療協議会救急医療専門部会」も昨年6月、道に対して自治体庁舎などのほか、学校など不特定多数が利用する施設での設置が望ましいと提言。道もAEDの普及が望ましいとの立場で、道内の保健所などを通じて啓発活動を展開している。

 北教組定期大会では、各支部の代議員から、現在参議院で審議中の教育改革関連3法案などに対する民主党や日本教職員組合(日教組)の反対姿勢が弱いとの不満が相次いだ。また、いじめ実態調査や全国学力テストへの「非協力運動」で批判を浴びたことについては、「北教組バッシングだ」といった発言の一方で、「取り組めば取り組むほど逆風が強くなる。世論の状況をみた戦術の配置をすべきでは」との意見も出された。(2007年6月13日 読売新聞)

 
 
今度は北海道教職員組合(北教組)に矛先を向けてみたいと思いますが、これはもうなんといったらいいのか、、、酷い! の一言ですね。
学校で子どもたちの健康に関して責任ある立場(=一種のヘルスケアプロバイダー)である教職員たちの意識の低さには愕然とするばかりです。
 
『AEDは「医療行為」であり「有効性、必要性、安全性」に疑問がある』
『「講習の強要など様々な問題が生じている」』
 
なにをいまさら、と呆れてものも言えません。
 
特に講習の強要うんぬんと公然と言えてしまうところ、恥ずかしくないんでしょうか? なんだか社会的に大きな問題に発展しそうな予感がします。。。
 
 


 

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コメント

  1. BISHOP より:

    全くもって同感です。
     
    特に最近は召すメディアの情報操作的な報道が酷くなっていると思います。
     
    欧米では知識武装と、疑う技術を持たない者は騙されてもしかたがないという風潮がありますが、多くの一般人は、中立であるべき報道が内部的な思想によって情報操作や誘導を行っているなどとは思いたくないものですから、真に受けてしまいます。

  2. mimimi より:

     僕も昨日,3m.comからのニュース配信でこれに気づきました.
     
     毎日新聞,道教組にメールをしましたが,まだ返信はありません.
     
     3m.comにもメールを送りましたが,“毎日新聞の記事を配信しているため,著作権上,勝手に修正は出来ない”と一蹴されました.毎日新聞の記事としてそのまま配信しても,補足として謝っている事実を記載する事は出来たはずです.こういう配慮のなさが,誤解を更に広げたりします.悲しい事ですね.

  3. 管理人 より:

    mimimiさん、BISHOPさん、こんにちは。
     
    今朝当直明けで帰宅して何気なくmimimiさんのブログにアクセスしてこの記事を知りました。
     
    あまりにズサンな報道に最初はなにかの間違いかと思いました。でも配信元は明らかに毎日新聞社。私も即抗議のメールを出しちゃいました。
     
    そのうち、どこかの団体が組織ぐるみで抗議をしてくれるのではないかと思うのですが、きちんとした謝罪・訂正記事が出ないとちょっとマズイですよね。

  4. なお より:

    新聞の報道記事見ました。
    間違った事実が報道されてることはきちんとしてほしいものです。
    ただ、一部の指導者(普及員)の中にも先にAEDをという認識を持ってる人がいることも事実です。
    AEDは万能機器ではありません。根本にあるBLSをしてその手助けをする機器なのです。
    AEDとBLSの普及に差がでてきてるのかなとも感じました。
     

  5. Kim より:

     私は逆に、こういう考えをする人もいるんだと言う事が分かって良いのではないかと思います。
     こういう人たちに少しでも分かってもらえるように活動する事が我々の使命であると思います。
     それから学校の先生達は忙しすぎるのでしょう。我々はAEDの必要性を分かっていますが、めったにない(学校で心肺停止すると言う出来事の確率がどのぐらいなのでしょうか)ことまで対応できないと思うのでしょう。逆に病院に入院した子供に対して、なんらかの教育を病院職員がやるべきだ(小児科のない病院で)と言う主張があったとしたら、、、、素直に受けられますかね、、、、

  6. 松本肇 より:

    批判記事を送られてはいかがでしょう?
     
    以前、東京新聞ですが、著名人とされる人のコラムで、人命を軽く扱う記事があったので、「その論法はおかしい」という記事を投稿したところ、読者の主張として掲載されました。そのコラムよりも大きなスペースで掲載されたので、成功と見ています(^^;)。
     
    新聞は、どの新聞でもいちおう「取材はきちんとやってます」というスタンスをとりたがるので、自ら訂正する時は、訂正記事を小さく書いたりします。
    そこで、「先日の記事にこういう主張をしている人たちもいる」って感じで別の記事を書く方が楽なのかもしれません。
     
    「雨降って地固まるとか」、「転んでもただ起きるな」っていう言葉もある通り、AEDを世の中に広めるにはチャンスです!
     
    管理人さん、投稿されてみては(^^;)?

  7. 管理人 より:

    なおさん、コメントありがとうございました。
    AEDがクローズアップされるのとBLSの普及に温度差があるのは私も感じます。AEDさえあれば助かるというイメージが先行してCPRの大切さが影に隠れてしまっているというか。ただ、これまで心肺蘇生や救命ということに市民への強い関心がいく機会ってほとんどなかったと思います。その点若干の誤解はあるもののAEDを通して、市民が積極的に手を出さなくては行けないという空気は生まれつつあるのは大きな進歩だと思います。AEDに興味を持ってくれて、AED講習を受けてくれればCPRの重要性は必ず叩き込まれますから、興味のきっかけとしてのAED、大きな役割を果たしていると思います。
     
    kimさん、「我々の使命」というお話し、おおいに納得です。教員の労働環境もかなり厳しいものがあるとは聞いていますが、AEDを特別なものと思わずに消火器と同じくらいに自然に受け入れてくれたらなぁと思っています。学校では年に1回は防災訓練が義務づけられているはずですが、それと同列の話に今後なっていくんじゃないでしょうか。滅多にない火災のための訓練を何十年もやっているわけですから、決して特別な話ではないと思います。
     
    松本肇さん、新聞社に対して抗議のメールは送らせてもらったのですが、読者投稿という形は考えませんでした。おもしろそうですね。今日、時間があるし書いてみようかなぁ。松本さんの視点にはいつもいい刺激をもらっています。

  8. バニー より:

    こんばんは。
    バニーです。
    先日はブログにコメントありがとうございました。
    私も看護師と消防団の掛け持ちで日々忙しくしております(汗
    しかし、これだけAEDの普及が進んでいるにも関わらず、この様な不適切な考えを持っている人たちがいるとは・・・
    しかも、教師・・・
    悩んでしまいますね(泣
    私も、ブログ内で一度AEDの事を取り上げたのでが、この様な記事があるのであればもっともっと普及活動をしなくてはと、改めて思いました。
     

  9. 管理人 より:

    大手新聞社で明らかな誤報道であるにも関わらずその後もあまり大きな問題になったという話は聞かないです。
     
    クレームに対する返答もないし。
     
    やっぱり組織としてきちんと抗議をしないとダメなんですかね。その次の策を考えているところです。