[再考] 手術看護の専門性

先週末に何気なく書いた「手術室外回り看護の専門性」というブログ記事ですが、思いのほか、皆さんから力の入ったコメントを頂いてちょっとビックリ。

このブログ開設当初からお付き合いさせて頂いている「なっちゃん」さんのブログでもこんなふうに取り上げていただきました。

患者さんの身の回りと、麻酔看護を担当する外回り業務が、手術室での看護の神髄という点では、ほぼ異論がないにしても、器械出し業務はどうなんでしょう? これまでも何度も「器械出し業務に看護はあるか?」というテーマで拙い意見を書かせてもらっていましたが、例の 『 【座談会】手術看護の専門性を考える 』 を通して、またあれこれ考えてしまいました。

当初、私の意見としては、器械出しは法整備さえ整えばナースがやる必要はなくなるだろうと書きました。これは専門化が進んでいるアメリカの制度を踏まえての意見でした。日本看護業界全体って、意識してか無意識か、欧米化に向かっていますしね。

アメリカでは器械出し業務は専門の技士さんが行なっていて看護師の業務ではない。そんな話を書いたら、アメリカ在住でナース資格取得を目指してがんばっている方からブログを通してメッセージが届きました。アメリカのサージカル・テック surgical tech の具体的な話を聞かせて頂き、とても有意義なやりとりになりました。これもインターネットならではの出会いでしたね。そんなアメリカの手術看護を知る方とのやりとりのなかでは、外回り業務と器械出しを切り分けた場合、いろいろ問題が出てくるのでは?? という疑問も沸々。

まあ、そんなふうにこのブログを開設してから、いろいろな方から刺激を受けて、私もいろいろ考えを深めたり改めたり。手術室看護について再考している今日この頃です。

手術室認定看護師制度ができてから、その教育内容には注目していました。これまで「看護じゃない!」 なんて言われることさえあった手術室業務が「専門」として認められたのですから。御上(おかみ)の方ではいったい手術室業務のどこの部分に注目して専門性を見いだしたのか―? 非常に気になるところでした。

ところが手術認定看護師が誕生して、幾分日が経っているにも関わらずいまいちその具体的な内容が見えてこない。(専門雑誌等はチェックはしているつもりなんですけどね。見落とし?)そんなやきもきした気持ちがあったなかで、あの対談記事はよかったです。

外回り看護(麻酔看護)ばかりが注目されているのかと思いきや、器械出し業務にも専門性を見いだそうとしているという方向性があるんですね。

器械出しは,施設や担当医が変わっても通用する,手術看護の独立したスキルだと思います。もちろん慣れた担当医との阿吽の呼吸も重要ですが,外科医が施設を移っても手術ができるのと同じように,熟練した看護師の器械出しスキルも普遍的に通用するものだと考えています。

確かに器械出しのテクニックはある意味財産かもしれません。そこは専門職に就いたものとして誇りに思ってもいい部分だと思います。実際仕事をしていても、手術の進行を先読みできて医師から指示がある前に、いいタイミングでスパッと器械を渡せると快感ですしね。職人としての技術を売り物に転職を考えることもできそうですし。

その器械出しのスキル、「病棟にいっても役に立たないじゃん」とはよく言われますが、そもそも病棟業務を基準に考えること自体がどこか違うんじゃないとも思います。

これは看護学校にいたときから思っていたことですが、看護教育システムの中では、あくまで病棟看護が基本なんですよね。まあ、全国に100万人いる看護職の配置分布をみると、病棟勤務が圧倒的に多いのは事実ですが、それが看護のすべてじゃないでしょ、と思うのです。

看護師の役割/業務は保助看法で規定されているもので「診療の補助」と「療養上の世話」のふたつ。これが看護師の独占業務です。これを出発点とすれば、「診療の補助」も看護師の立派な仕事なのですが、これに関して誇りを持とう、というような空気はあまり感じられないのが現状だとは思いませんか?

現行の(というか私が受けてきた)看護教育を考えると、療養上の世話こそ看護婦の仕事であるという雰囲気があると思うんです。それはどうしてなんでしょう? やっぱりDr.の指示がないと動けない部分よりは、看護師として独自に動ける「療養上の世話」に目がいくのかもしれませんね。「補助」で終わるのではなく独自性をという願いも理解できなくはありません。

それもわからないでもないですけど、その発想でいくといまの手術室の仕事の半分は看護師にとって魅力がないものになってしまう。それが残念でなりません。

近年、看護婦という国家資格名が看護師と改称されたり、看護大学があちこちに創設されたり、看護の仕事を専門職として確立しようという動きが見られています。もしかしたらそのあおりが手術室看護の領域に影響を与えているのではないかな。

今の看護界の流れで看護の専門性を追求すると「療養上の世話」が主たる看護業務で医学的知識はその「療養上の世話」の行為に根拠性を持たせるための添え物に過ぎないという流れになりかねない。手術の直接介助という高度に医学そのものの仕事に携わっているといううちらオペ室ナースは、看護の専門性からあぶれていってしまうのでは?? そんな危惧さえ感じてしまいます。

もっと自信をもって働きたいし、ORナースに憧れて看護師になりたいという若い人がもっと増えてほしい。まあ、つまりところはそれだけなのですが、看護界のはぐれもの手術室看護師の未来と日本看護界の流れを考えると愁いに沈んでしまう私でした。

『迅速な器械出しで手術・麻酔時間を短縮、患者への侵襲を最小限に抑えるという意味で器械出し業務も看護である。』

そんなこじつけみたいな理由付けではなく、「診療の補助という立派な看護を実践している」、そんなふうに堂々と言えるようになりたいなぁ。

ところで、EB Nursing という看護雑誌をご存じでしょうか? 心臓外科医で有名な南淵明宏氏(よくテレビにも出ている人です)の連載エッセイがあるんですが、その最新号でオペ室ナースについて書かれていました。私が求める手術室看護師の3つの条件、みたいな内容だったのですが、おもしろかったですよ。オペ室の仕事を好きになれ、とか、外科医としては専属ナースを望んでいるとか。OPE室ナースの専門性という点で励みにもなる内容です。病院の図書室にでもあったら是非読んでみてください。

EBNURSING(イービ-・ナーシング)
Vol.6 No.4 2006年 Autumn

ナースの常識!? 医者の非常識!?(最終回) 南淵明宏
「声を出そう 行動しよう 無謀な医者の行為にじっと我慢するのは止めよう」

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. 姉さん より:

    器械出しと外回りの業務の中で、「看護」を見出すのに戸惑うのは、どこでもある話ですよね。「看護」という文字の意味を考えると、「(私たちが)看て護る」という原点に帰れば病棟であろうが、手術室であろうが同じだと思います。私も、管理人さんのように器械出しに関しては、看護師でなくとも手順や器械の名前・用途がわかれば、できる仕事と思ったこともありましたが、長年(汗)手術室の看護師をやってると、器械出しも執刀医の気分になってやるようになってくる自分に気づき、「これは医学知識がないとできないかも」と思ってもいます。
    外科医は、「メッツェンの先に目を持て」とよく教育されますけど、それと一緒かなとも思います。
    私たちは人にメスを入れることを(日本では)許可されていませんが、器械出しとして外科医と同じ舞台に立った時、自分の頭の中でそれができるように思いますし、そうすることで自然と外科医が欲する物がわかってくるようにも思います。
    南淵先生の言う「専属のナースがほしい」と言う言葉は、よくわかります。上に書いたような事ができる相棒(器械出し)に助手がいれば、手術はそれだけ早く進みますし、医療チームとしてのリスクも少なくはなるでしょうしね。私は個人的に専属ナース制には賛成ですが、なかなか法律的に?組織的に?無理なことなので、オールマイティにやるしかないですけど。
    外回り・器械出しどちらも医学知識と人間の五感を生かさないとできない仕事ですので、早く日本の手術室看護の専門性も確立されるといいですよねぇ。
    長くなっちゃいましたが、自分の思ったことだけ書いちゃいました。スイマセン

  2. 管理人 より:

    姉さん、さっそくのコメントありがとうございました。専門性について、私自身、まだいろいろ考えているところで、揺れてもいます。思うところを今後もポツポツと書いていこうと思っています。
     
    専属ナースという発想、私も賛成です。個人病院だったり、エライ先生になるとそういうパターンもあるみたいですね。
     
    うちの場合は整形外科だけは専門チームに分かれていて、私は週2日は脊椎の手術ばっかに入るのですが、さすがにそれだけ数をこなしていれば慣れますし、Dr.とのリズムも合ってくる。整形のDr.も脊椎専門ですから医師・看護師を含めたチームとして一体感を持って仕事ができるのがなかなか快感です。お互いがお互いの仕事がわかっているってすばらしい! と思います。プロ意識というのもこういうところから生まれてくるんだろうなと思います。
     
    外科系のすべてをこなすというのは守備範囲としては確かに広すぎます。どうしても浅くなってしまうのは必然かもしれません。そんな中で得意な診療科とか興味がある科を見つけて、これだけは! ってものを作るといいよ、なんて私は後輩にアドバイスをしています。

  3. なっちゃん より:

    記事を取り上げてくださってありがとうございます(ちょっと驚いたけれど>笑)
    私は器械出しも立派な看護と信じて毎日仕事をしています。きっかけは夜間の勤務で人が足りなくなり、お手すきのドクターと器械出しを変わったときのことでした。やっぱりオペの状態・進行がわかるドクターの器械出しは的確で速くて、とても嫉妬したんです。それってやっぱりドクターとして医療の目でオペを見るからこそなしえることなんだろうなって思ったら、同じ医療者として悔しくってもう一度勉強し直しました。だから、私は「看護師」のプライド(新人なりに)を持って器械出しをしているつもりです。
    前回の記事を読んで私の手術室看護のモチベーションがあがったのは本当です。おかげで最近は仕事を「楽しい」と言えるようになりました。(毎日注意されることばかりだけれど…>笑)一般病棟の同期の子達からは「何してるの?」ってよく言われるけれど、胸を張って仕事内容を立派な「看護」だと話せるようにこれからみんなで専門性を確立していけたらいいなぁって思います。

  4. sasurin より:

    こんばんは!やっぱりオペ室のナースは、オペをいかに和やかに、そしてスムーズに進められるかのカギを握ってると思います。前は器械出しって看護じゃないと少し思ってましたが、日々努力しDrから頼りにされるような器械出しができることはそのオペ室の空気を和やかにし、Drもたとえ予期せぬことが起こっても冷静に対処できるナースが側にいることで集中できるし、器械出しも外回りも立派な看護だと最近は思います。私はなっちゃんと逆で、普段血管オペに入らないようなDrが急患で人がいなくて器械出しせざるを得ないときに、AAAラプチャーだったのですが、器械出しがついていかず、執刀Drに「器械出しちゃんと教えてやってくれぇ~!!」と叫ばれ、ナースが器械出しできたならDrも少しは冷静にオペできるんじゃ…?と、器械出しなしのオペって怖いし、本来ならあってはならないことだなぁとつくづく思います。
    自分なりに努力して、知識や経験を確実に身につけていくと、Drはちゃんと気付いているし、ナースとして認めてくれるし、ときには専属ナースになってほしいといってくれることもありますよ。Drに信頼されるということは、このナースには自分の患者さんをまかせられると思ってもらえるということじゃないですかねぇ?
    前は手術室ナースの仕事に嫌悪感ばかりありましたが、最近オペ室ナースっていいかもと思えるようになりました(^O^)/

  5. 管理人 より:

    なっちゃんさん、連絡もせずに急に書いてしまい申しわけありません。ここのところちっともコメントは差し上げていませんが、そちらのブログ、ずっと読ませてもらっているんですよ。今回のマネージメントの話にしてもなっちゃんさんの純粋な姿勢、応援したくなると同時に見習わなくちゃと思います。
     
    sasurinさん、おひさしぶりです。オペ場のムードメーカー、そうですよね。あと現実問題、ナースのお膳立てが無ければオペなんて一件たりともできないと思います。そんなナースの役割を医師たちはどう認識しているのかなぁ、と思うことは多々あり。まずは信頼関係の構築ですね。(自分への独り言です)

  6. 手術看護の専門性・・・ですか
     
    看護師十数年やってきて、外来の看護師としても、病棟の看護師としても、また、検査部門でのIVRやら、内視鏡やらと色々携わってきました。確かにそれぞれの場所で看護師でなくても出来る仕事はいくつかありました。「こんなの看護師がやらなくてもいいじゃないですかぁ~~」という声もたくさん聞こえてきたりして。
    でも、わたしの中では自分なりの、看護観があって、「それを看護師がやる意味」をいつも考えるようにしているのですが、単に手順だけ覚えてしまえば器械だしは、誰にでも出来る仕事かもしれません。でも、その患者様の全体像をとらえて把握した上で器械だしができるのは、看護師だからだと思うのです。「言われたものを出すだけなら、誰にだってできるぞぉ~~!!お前は看護師だろう!!」 なんてたまに怒鳴ってたDrもいたぐらいですから、やっぱりDrも「看護師」が介助してくれる利点(?)をちゃんとわかっているのではないかと思います。
     
    私は外回りであれ、器械だしであれ、立派な手術室看護だと思います。

  7. あっこ より:

    はじめまして。あっこと申します。来年就職予定で、いまは病院の内定をもらって国試の勉強をしています。
    話は変わりますが、私は病棟配置希望の第一希望に手術室を希望しました。そのことを友達や先生に話すと、真っ先に「なんで~!?」と言われてしまったりしてます。やっぱりみんなは看護の仕事=病棟看護しか考えられないようです。そんなことが続いて手術室って看護じゃないのかな…?と考えてしまった時期がありました。そんなときに、ここのブログを拝見させていただいて、実際の手術室の看護を具体的に知ることができ、やっぱり看護なんだ!!と思いました。まだ学生で手術室の看護とはなんぞや!?ということも知りませんが、来年からオペ室に配属されることが楽しみになってきました。国試が終わってから、手術室の看護についてもっと勉強してみたいと思います。

  8. 管理人 より:

    にゃんぽりんさん。外回りであれ器械出しであれ、立派な看護。そう言う認識がオペナース自身も含めて、看護界全体に行き渡るといいですね。何より不本意な配属・異動でオペ室にきてしまった人たちがそう思ってもらえたら。。。
     
     
    あっこさん、入職前からオペ室希望なんですね! うれしいです、そういう方がいてくれて。
     
    基本的にはゼネラリスト(何でも屋)のはずの看護師の仕事の中で、高度に専門化されたスペシャリストとしての最たるものがオペ室での仕事だと思います。「病棟看護がすべてだ」という視点からはなかなか評価されにくい部分もありますが、みごとオペ室に配属になったら、どうぞ自信と誇りを持って取り組んでいって下さいね。
     
    このブログの内容、いまはちょっとわかりにくい部分もあるとは思いますが、来年4月にあっこさんが新人オペ室ナースとして見てくれる頃には「役立つ情報満載」なページに成長できていたらいいなと思っています。