心室細動(vf)とはなにか? 初動対応の重要性

ひとつ前の記事で、ナースなら最低限、心室細動(Vf)の波形だけは素早く判断できるように、という話を書きました。

今回はその続編です。心室細動(Vf)とはなにかという話をしていきたいと思います。

心室細動は、一言で言えば心臓(特に心室)が不規則に痙攣して、有効な血液の拍出ができていない状態をいいます。現場ではわざわざ心室細動とは言わずにVf(ヴイ・エフ)と省略形で言うことの方が多いかもしれません。これは ventricular fibrillation の略で、ventricular は心室、fibrillation は細動、まさに直訳そのまんまですね(笑)

ちなみに除細動器は defibrillator といいます。ディフィブリレーター、すごい発音しずらいですけど、でも単語構造は簡単。

de は接頭語で分離、除去という意味。つまり fibrillation を取り除くものということ。これも直訳そのまんまです。で、AEDの”D”の正体は実はコイツだったんですね。

もうひとつおまけの話ですが、おなじVFでも、ventricular flutter というのもあります。flutterは日本語では「粗動」と訳されます。つまり心室粗動ですね。

心室細動より拍数が少なく1分間に何回程度という基準があったような気がしますが、臨床的にはあまり区別する意味がないので、さほど問題にはされないようです。あえて両者を区別するときは、心室細動はVf、心室粗動はVFと表記されます。(AFとAfもおなじです。Aはatrial=心房)

一般に「ヴイ・エフ」と言ったら心室細動と思ってしまっていいです。「ヴイ・エフ」=超緊急事態と覚えておいてください。

心室細動(Vf)時の心電図波形としては、こんなような感じに記録されます。

心室細動(Vf)時のモニタ心電図波形

P-QRS-Tがはっきりせず、規則正しいところがなにひとつなく、とにかくメチャクチャ状態。強いて鑑別っぽいことを行なうとすれば、、、、振れ幅(高さ)の大きな波が続いていますので、これは心房ではなく心室由来の電気活動であると想像できます。

解剖学の教科書に載っている心臓の断面図をみてもらえばわかるように、心房に対して心筋は壁が非常に厚くできています。そのために、心室から発生する電気信号は強く、振れ幅が大きく出るんですね。(P波が小さいのに対してQRSが大きいのとおなじです)

次に波形の形がバラバラなのは、心室心筋のあちこちの部位から電気信号が出ている証拠。心室性期外収縮の場合で、単形性か多型性かが問題になりますが、心室から信号が出る場合でも、いつもおなじ場所であれば波形の形は一緒になります。違う形というのは出どころが違う証拠。

ということで、心室のあちこちから不正な電気信号が発生して、結果的に心臓が細かく痙攣している状態、といえます。

さいわい、我々オペ室ナースは、CABGなどの心臓手術のときに、心室細動を起している心臓をナマでみるチャンスがあります。人工心肺からの離脱時などかなりの確率で心室細動を起しますよね。実際に心臓の痙攣(細動)という状況が納得できるはずです。

◆ 心室細動発見時の初動対応

まあ、そんな波形の解釈はどうでもいいので、とにかく、こんなメチャクチャな波形をみたら、「あ、Vfだ!」とおおいに気を引き締めてください。この先数分間の行動によって患者さんの予後が多いに左右されますので。

心室細動を見つけたら反射的に体が動ければベストですが、ただオペ室の場合、電気メスを使ったときのアーチファクト(ノイズ)でVfっぽい波形が現れる場合もよくありますので、早とちりなきようご注意。まずは電メスやバイポーラを使ってないかなと言うことを素早くチェックしましょう。たいていの場合はこれだと思います。

次に脊椎麻酔や局所麻酔など意識下での手術でしたら、まず患者さんに声を掛けて意識があるかどうか確認します。心室細動は前触れもなく突然に発生することがあり、数秒程度で意識消失します。意識清明で気分も変わりないのであれば別のアーチファクトの可能性大です。

全身麻酔の場合、意識の確認はしようがありませんので、脈拍の有無を診ます。ただしあまり時間を掛けないこと。脈がないことを間違いなく「ない」と確認するの難しいものなので、10秒掛けても確信が持てなければ、脈なしとして取り扱うことが定められています。電気メスも使っておらず、アーチファクトの可能性が低いようなら、とりあえず人を集めて除細動器を持ってきてもらうようにように手配することの方が先かもしれません。

これは町中で、バイスタンダーとして救急現場に出くわしたときもおなじなのですが、「通報」と「CPR」、どっちが先かという問題があります。傷病者が成人の場合は「通報」なんですね。なぜかというと、成人の場合は心室細動が原因で倒れている可能性が高いので、まず通報して1秒でも早く除細動器を手配することが優先されます。脈拍チェックはガイドライン2005になってからは省略されるようになりましたが、医療従事者が行なう場合にしても10秒以上時間を掛けることは否とされています。

心室細動は、電気的除細動を行なわないかぎり正常リズムには戻りませんので、まずなにより除細動器の準備が優先。脈拍の有無が10秒以内に確認できない場合は、脈なしと判断して、除細動器を持ってきてもらうよう人を呼ぶことが優先されます。麻酔科管理手術であれば麻酔科医も一緒にいるはずですので、基本的にはその指示に従うことになりますが、麻酔科医も慌ててるでしょうから、ナースとしてもまず何をすべきなのかを把握して自主的に行動できることが求められています。その点でナースもACLSの訓練を受けておく意味が大きいと思います。

次いで行なうのはCPR。人工呼吸と心臓マッサージですね。オペ中でしたら、麻酔科医や局麻オペの場合でも執刀医がいますので、基本的にはその指示を仰ぐことになります。場合によってはCPRができる体位に戻さなければならないでしょうし、閉創を急ぐのか、開胸心マを行なうのか、、、、

とにかく心室細動が起きた場合は、まず人を集めて除細動器を持ってきてもらうことが優先だということは、院内外問わず覚えておきたいポイントです。局麻オペでは、麻酔科医を呼んで、その判断を待ってからDC準備では遅すぎるので、同時進行で人と除細動器の取り寄せが重要となります。

◆ CPR(心臓マッサージと人工呼吸)を行なう意味

心臓マッサージは、除細動をかけるまでの時間稼ぎでしかありません。心室細動を起しているときは、心臓の血液拍出は停止していますので、3分もたってしまうとまず脳がやられて命を取り留めても高度障害が残る可能性大。

さらには心臓の冠動脈にも血液循環がありませんので、最初は元気(?)に痙攣を起していた心臓もだんだん力つきて弱くなっていきます。心電図波形でいうと波形の振れ幅がだんだん小さくなっていきます。で、やがてはツゥーという一直線に、、、。これが心静止と呼ばれる状態。心静止になってしまうと、除細動は適応がありませんし、もう手の施しようがない状態。

そうならないで、元気に心室細動状態を維持してもらうためには、心臓マッサージで心臓自体にも血液と酸素を供給しつづけてやる必要があるわけです。

心室細動は発生直後は心筋内のエネルギーが高いので、除細動で電気活動をリセットしてやればサイナス・リズムに戻る可能性は非常に高いです。心筋内のエネルギーを消費しながら痙攣していますので、時間が経てばたつほど復帰する確率は下がっていきます。一般には1分経つごとに7~10%の蘇生率低下が言われています。

◆ まとめ

  1. 心室細動らしき波形を見つけたら、まずは人を呼び、除細動器を持ってきてもらう(自信がなくても疑わしければ、タイムロスを避けるためとりあえず行動する。迷っている時間はない!)
  2. 心臓マッサージ(できたら人工呼吸。器具がなければやらなくても良い)
  3. AEDがあれば、医師の到着を待たずに使用する

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コメント

  1. なな より:

    私は最近、脳外のオペでCVPラインを麻酔科医が挿入している時に、Vfに遭遇しました。すごいびっくりしましたが、まさにその時とった行動は、今回の記事そのものでした。それに合わせて、リドクイックやボスミンもワンショットしたのですが、その時の薬剤投与の効果はあるのでしょうか?

  2. 管理人 より:

    ななさん、たいへんな現場に遭遇してしまったんですね。
    その後、患者さん、大丈夫でしたか?
     
    まあ、オペ室では基本的にモニタ心電図付けているし、人工呼吸器(麻酔器)はあるし、麻酔科医も常駐しているし、いざというときを考えるといちばん安全な場所かもしれないですね。
     
    反対に言えば、そんな場所だからこそ、オペ室内で突然の心停止で亡くなりましたとは言えないと言うか、適切な判断が遅れたら責任問題にもなりかねないコワイ部分でもある気がします。
     
    さて、リドカインとボスミンについてですが、これは続きとしていつか書こうと思っていたところだったんですよ。
     
    1.心電図でVfが判断できる
    2.人を集めると同時に除細動器(DC)準備
    3.心臓マッサージ
     
    この先に続いていくのが、二次救命処置と呼ばれる部分になります。いわゆるACLSですね。
     
    いまや世界的に統一されているACLSの手順(プロトコル)では、vfの場合、除細動に反応がなければボスミン(エピネフリン)1mgを3~5分ごとに静注することになってます。それでも反応がなければリドカインなどの抗不整脈剤を使うという流れになります。
     
    使う薬、特にボスミンはもう決まりきった定番薬ですので、vfをみたら麻酔科が来るのを待つ間にも薬液をピストンに吸っておくというのも意味があることかもしれません。(その手間を省くためにいまはエピクイック等があるわけですけど、もしアンプル薬しかないのであれば、、、)
     
    ナースとしてもここはすごく大切な部分だと思いますので、ななさん、ぜひご自身でボスミンの薬理効果とACLSについて調べてみてください。せっかく貴重な体験をしたのですから、これを機にACLSをものにしちゃいましょ。インターネット上でも相当な資料が出てくるはずですよ。

  3. チロ より:

     管理人さんのブログを見てると、手術室で働くのも面白いなと思います。私も、愚痴ばかりでなく頑張ろうと思います。
     
    一つ質問です。後輩を指導するときに、手術室看護師として、麻酔看護を学ぶ重要性や必要性をどのように指導していますか。日々の手術に入っていれば感じるでしょうと思われるかもしれませんが、それらを意識付けしていくのが難しいなと感じるものですから。また、その技術・知識のチェックはどのように行っていますか。
     
    今回の内容とは関連のない質問ですみません
     

  4. 管理人 より:

    チロさん、いつも励みになるコメントありがとうございます。
     
    麻酔看護へのモチベーションですか、、、。
    うーん、危機感を感じてもらうというのもひとつの手ですかね。
    局麻手術では麻酔科医は着きませんよね。そうなるとモニター等で
    Pt.の状態を把握するのはNs.の仕事になります。
    特に眼科などは高齢者も多く、心肺機能が危なっかしい人が結構います。眼科医は眼科医で全身状態の把握まではちょっと、、、という人ですから、そんなときふだんはまかせっきりのモニター画面に目がいかざるを得ない。
     
    そんな局麻オペ時の実際のトラブルの話を通して、考えてもらうというのはどうでしょう? 実際にコワイ思いをすれば、すんなりだと思うんですけどね。
     
    あともうひとつは麻酔科看護の専門性に誇り持ってもらうという方法。アメリカの麻酔専門看護師の話をしてみるというはどうでしょう? アメリカでは看護師の上級資格として麻酔専門看護師の資格があります。実際に麻酔を掛けて維持管理をできる資格。日本でも麻酔科学会が麻酔看護師を作ってほしいと要望しているんですけど、看護協会が断固否として実現には至っていませんが、アメリカではそこまで麻酔科看護の専門性が認められているんですよ。
     
    まあ、どっちかといえば看護というより医学寄り部分な話なので、「医学と看護は違う!」とお叱りを受けそうな部分でもありますけど。
     
    この件では、まだいろいろ書きたいことがあるので、そのうち麻酔科看護の重要性ということで本記事として取り上げたいと思います。もうちょっとお待ちくださいね。