ブラシ不要の術前手洗いについて

『最近、疑問に思うのが手洗いの方法とガウンについてです。最近、手洗いの際にブラシの必要性がないということで、素荒いのみでOKになりました。しかし、まだブラシを使っている人もいます。ガウンもマスクがあるやつもあれば、ないのを使っている先生もいます。そこのところ、どれが正しいとかあるんでしょうか?マスクがいらないというエビデンスがあるんでしょうか?最近、OP室勤務になったのでわからないことだらけなんですが、なにか参考になるお話があればお聞きしたいのですが・・。お願いします。』
れんさんより)

またまた読者の方からご質問を頂きまして、ブログをやっている身としましてはありがたいかぎりです。ありがとうございました。

今回はQ&A風にいきたいと思います。

◆ 手洗いにブラシは必要か?

まずは手術前の手洗い方法についてですが、これについては答えはスパッと出ていて、全国的に共通認識として一般化してきました。

・ブラシは不要(使わなくて良い)
・固いブラシは使うべきではない

ブラシを使わない根拠は大きくふたつあると私は理解しています。
まずは、いくらゴシゴシ手を洗ったところで常在細菌の除去は不可能であるという点。毛穴の奥にも常在菌はいますので、いくらブラシを使って赤切れるまで手を擦ったり、消毒薬を塗りたくったところで、手が無菌状態になることはありません。一時的に無菌になったとしても30分もすれば毛穴の奥から細菌クンたちがゾロゾロと這い出てきますのでナンセンス。

そうしたことから、手術前手洗いは、汚れと一緒に附着した一過性菌を洗い流すことが目的であると明確に言われるようになってきました。そのためにはふつうのもみ洗いで十分。ということでブラシは不必要です。もみ洗いとブラシ洗いで残った附着菌の数に差があるかを調べるという研究がいくつもなされていますが、いずれの結果からも両者に差異はないということは実証されています。

ツメの間がもみ洗いでは十分に洗えなくて気持ちが悪いから指先だけはブラシを使うという考えも根強く残っていることは事実です。これについては私も否定しませんし、実際に私もその日一回目の手洗いの時はブラシを使っています。しかし次に述べる理由から、ブラシで擦るのは指先と手のひらだけにしています。

◆ ブラシを使わない方がいい理由は、、、、

ブラシは不要である理由を述べました。ブラシは使っても使わなくても洗い上がりに違いはない、よって使う必要はないというのがこれまでの論調でした。しかしもうひとつ、ブラシを使うべきではない、という積極的な理由が存在しています。

簡単に言えば、ブラシで皮膚に小さなキズができる可能性があるから。不必要に皮膚を傷つけるのはどう考えてもおかしいことですし、そのキズの部分にかえって菌がたまりやすくなるので、ブラシ使用は逆効果、というエビデンスがあるそうです。

実際に、皮膚が乾燥する冬場なんかはブラシによる”侵襲”を実感することってありますよね。イソジンやヒビテンの消毒薬がヒリヒリ滲みる感じがしたり。ブラシによって皮膚が傷ついている証拠です。

ブラシを使っても使わなくても洗浄効果に違いがないなら、ブラシを使わない方が手には愛護的だよね、というのがブラシは使わない方がよいという積極的な理由になります。

それでもまだブラシを使い続けている人がいるというのは、単なる習慣によるものといって良いと思います。これまでブラシでゴシゴシやってたのを急にもみ洗いに変えろといわれても、どうも洗っている感じがしなくてイヤだと言う人がけっこういるようです。

まあ、そういう人はきっと肌が丈夫なんでしょうから、放っておけばいいんじゃないでしょうか。これが明らかにアカギレになっているのにブラッシングを続けるようであれば、誰かがやめさせた方がいいとは思いますけど(笑)

古い医者なんかに多くありません? ブラッシングをやめない人って。
実は医療って科学に見えて科学じゃない部分が多いんですよね。根拠より経験則が重用視されて発展してきた領域だから。術後の創消毒だって無意味、むしろ有害と言われているにもかかわらずガンとして消毒をやめないのは意外と大御所と言われている古い医者だったりするんですよね。

◆ マスクの使用に関して

>ガウンもマスクがあるやつもあれば、ないのを使っている先生もいます。
>マスクがいらないというエビデンスがあるんでしょうか?

ごめんなさい、おっしゃっている状況がちょっとイメージしづらいのですが、マスクが付いているタイプのガウンというのがあるんですか?

マスクって口を被うマスクのことですよね?

もしかして、頭全体をすっぽり被ってしまうタイプのガウンの話をしてます?
ちょっとそこのところがわからなかったので、マスクについての話は保留にさせてください。

(追記)
コメント欄で補足説明を頂きましたが、滅菌ガウンにマスクが付いているタイプというのがあるそうで、不潔なマスクの上にさらに清潔なマスクがかぶさるような感じになるのだそうです。

つまり、マスクを二重にする意味、もしくは清潔なマスクをつける意味があるのか、というご質問と理解してよろしいでしょうか?

正直、そのようなマスク付きのガウンが存在すること自体、私は知りませんでした。当然、私の勤務する施設ではそのようなタイプのものは使っていません。

オペ室に出入りする人間は、普通に洗濯された術衣を着て、頭と口元にはディスポの帽子とマスクを付けています。手洗いして清潔になる場合は、その状態で普通のディスポの滅菌ガウンを着るだけ。顔まわりが清潔になることはないです。

正直、そうした設計になっているガウンの「意味」はよく分からないのですが、マスクが二重になっていれば、それだけ呼気や唾液などの飛散が少なくて、「悪い」ことはあまりなさそうですね。ただそれが必要なものかと言われれば、あって困ることはないけど、なきゃダメなものではないもの的な気がします。

マスク部分が清潔である意味は、、、ないでしょうね。
ドクター同士が顔を寄せ合うみたいに術野を覗き込んだときに、お互いに触れあってもいいように、という配慮??

スイマセン、ぜんぜん答えになっていませんね。
なにぶん現物を見たことも聞いたこともないモンで、、、
どなたかこのマスク付きガウンについてご存じの方いましたら、フォローお願いします。

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コメント

  1. れん より:

    手洗いの件については、わかりやすくご返答ありがとうございました。マスクの件は少し説明が不十分だったみたいです。普段の勤務中は手術着をきてマスクをしておこなっています。医者も看護師も。そして、手洗い看護師と術者は清潔のガウンをして、清潔の手袋をしますよね。その清潔のガウンにマスクがついているんです。頭の後ろで紐を結ぶタイプの。普段のマスクを二重にしている感じ。口の周りだけ清潔のマスクがくるということです。最近、そのマスクがついていないガウンが出現しました。その違いは??ということなんですが・・。これで、イメージが出来るでしょうか・・。

  2. 管理人 より:

    れんさん、追記の形でマスクについて書かせていただきましたが、ごめんなさい、ちっとも答えになってないですね。
     
    そのようなマスクが一般的なものなのか、それ自体からして私にはわかりません。
     
    ただ少なくとも、私の勤務する施設ではそのような二重マスクは使っていませんし、他施設でも使っている場所はそう多くはないんじゃないかな。
     
    つまりなくてもあまり問題ない気がします。
     
    ただ脳外の手術とか、人工関節の手術など、バイオクリーンルームで行なう手術に際しては、術者の呼気までも管理しようと宇宙服みたいなものを着てオペをしていた時代もあったようです。そんなオペの名残なのかな、という気がしました。

  3. sasurin より:

    こんばんは!うちはクリーンOPEのとき、宇宙服のようなフードかぶってやってますよ。最近は減ってきてるんですか?  
     手洗いと言えば、私はヒビスクラブで前腕に発疹がでて、手指は関節のところがあかぎれのように割れて、もう秋冬は手がボロボロになりすぎてこれが一生治らなかったらどうしよう…とホントに泣きそうでしたが、強力なステロイドと乳液でやっとおさまりました。
    イソジンとヒビスクラブ以外に、皮膚にやさしいのってあるんですかねぇ?皆さんは消毒薬での手あれの悩みはないですか?

  4. いちご より:

    はじめまして!楽しく拝見させていただきました。マスクに関してなんですけど、うちもガウンについていますよ。マスクのないガウンを使っているところもあるのですねー!私の場合は鼻が気になったりしてしまうので、清潔なマスクで助かっています♪時々紐で耳がいたくなるのも難点ですけど。。

  5. 管理人 より:

    いちごさん、はじめまして。
    マスク付きのガウン、結構使われているんですね。
    反対にマスクなしのガウンが不思議に感じてしまうとは、ちょうど私と反対ですね(笑)
    病棟とちがってやっぱり情報交換の場が少ないゆえのことなでしょう、きっと。

  6. 管理人 より:

    sasurinさん、冬場の手荒れ、オペ室ナースにはツライですよね。
    昨今の手洗い新基準では、消毒剤配合のソープは必須ではなくなって
    います。普通の石鹸で、というのも職場事情的には難しいでしょうから、
    イソジンソープ等はサラッと使うだけに留めて、最後にウェルパスのような
    すり込み式の消毒剤を使う形にしてはどうでしょう?
     
    あとは手洗いの前に、ワセリン等で皮膜を作ってしまうのもいいみたいですよ。
    以下、湿潤療法で有名な形成のDr.の文章を引用しておきます。
     
    http://www.wound-treatment.jp/new_2006-02.htm
    (2006/2/3のところをご覧ください。)
     
    =======================================================
    冬の手荒れ,主婦手湿疹,頻回の手洗いによる手荒れ対策についての問い合わせが相変わらず多いです。これまで掲示板でも何度か登場したネタですが,問い合わせが多いのでもう一度おさらいです。
     
    仕事の前に白色ワセリンかプラスチベースをたっぷりめに手に取り,塗り込むように両手に塗ります。十分に手になじんでから,乾いたペーパータオルなどでべたつきが気にならなくなるまでふき取ります。これで皮膚の亀裂や皺は油の膜で覆われるため,手洗いによる手荒れを防いでくれます。
    重要なことは,水仕事をする前にこれをすることです。私の場合,外来が始まる前にするようにしています。患者さんを診察するたびに手洗いしていますが,これで大体昼頃まで大丈夫です。この「塗り込み→ふき取り」を必要に応じて一日に何度かするだけで,手荒れも治るし,手荒れ予防にもなります。
     
    白色ワセリンやプラスチベースは無味無臭ですし,口内炎用の軟膏,眼軟膏の基剤として使われています。つまり,口の中や目に入っても安全ということです。手荒れや主婦手湿疹にお悩みの方,是非,試してみて下さい。
    ちなみに,手荒れ用のクリーム,なんて代物もありますが,かえってひどくなりますので使ってはいけません。クリームは本来,「荒れた皮膚」には使っていけないものだからです。

  7. hima より:

    はじめまして!いつもいつも拝見させていただいてます!勉強になります!私は今年の4月からオペ室に移動になりました。移動を希望していたわけではなかったため、かなりの戸惑いの中2ヶ月がたちました。。。               手洗いについて質問があります。私たちの病院でも手揉み洗い法を導入していこうと考えているのですが、手揉み洗いのマニアルってあるのですか?あれば教えていただきたいのですが・・・!手指だけブラッシングではなく、完全に手揉み洗いを考えているのですが!!

  8. 管理人 より:

    手揉み洗いのマニュアル、定番となったスタンダードな方法がマニュアル化されているかはわかりませんが、手洗い法に関しては大小さまざまな研究がなされています。ここ数年刊行されたようなオペ室関連の書物や、Ope Nursingでもよく取り上げられています。
     
    ゴールデン・スタンダードとも言うべき方法(回数や時間等)はないにしても、どの研究でも似通った方法で行なっていますので、それらを参考にマニュアルを制定するというのも充分にいけると思いますよ。
     
    手近な本やネット検索、医中誌検索をすれば必ず文献は出てきます。探してみてくださいね。

  9. 管理人 より:

    いまちょっと検索してみました。
     
    http://www.meteo-intergate.com/journal/jsearch.php?jo=cc4jaort&ye=2004&vo=25&nu=2
     
    上記ページ内に次のような論文の存在が書かれていました。
     
    ◎手術時手洗いの検討 -もみ洗い法を導入して
    ◎手術時手指消毒ブラッシング1回法と手揉み法の比較検討
    ◎アルコールラビング法を併用した,手術時手洗い方法の検証 -3~5時間の手術を対象として
    ◎短時間の手術時手洗い -ブラッシングから手揉み洗いヘ
    ◎手荒れのある医療従事者における効果的な手指消毒法について
     
    有料ですけど、ウェブ上の手続きだけでダウンロードできるようです。
    あとは病院図書室を通じて文献複写という手もありますしね。
     
    以上、文献さがしのヒントになりましたら。

  10. hima より:

    ありがとうございます!!調べてくれたんですね!
    参考にさせていただきます☆

  11. 宮崎 より:

    深爪は細菌繁殖の原因と言えるのでしょうか
     

  12. 管理人 より:

    宮崎さん、はじめまして。
     
    うーん、ちょっとコメントが漠然としすぎていてお答えには詰まるのですが、深爪というのはツメを短く切りすぎた場合の、手術時手洗いへの影響、ということなんでしょうか?
     
    私自身、深爪という状況になったことがなくいまいちピンとこないのですが、深爪によって皮膚を傷つけていればあまり望ましくない状況かなとは思うのですが。。。。スイマセン、答えになってなくて。

  13. るい より:

     随分時間がたっているのですが、マスク付きガウンの件です。
     MRSAの保菌者が術者や直介ナースである場合、術後のMRSAの感染率が優位に高まるため、心外や人工関節の場合、術前に患者・術者が鼻軟膏を塗る施設があるくらい、鼻腔からの排気は重要です。
     ですので、不潔のマスクも鼻のワイヤーをぴったり密着させないと全く意味が無いとも言われています。
     
     私がいる施設も整形や清潔度の高い術式の場合や気にされる先生は必ずマスク付きのガウンを着用しています。
     

  14. マロン より:

    初めまして。 マスク付のガウンの話ですが、私が以前勤務していた施設も使用してました。 マスク付とマスク無の両方あり、主に整形外科の時にマスク付を使っていました。他が清潔じゃないって訳ではないと思いますが、より清潔にってニュアンスで使っていたと思います。何せ下肢の手術や上肢の手術は消毒の時に器械出しが下肢や上肢を持っていないとならなかったので必要以上に清潔な場所を必要としていたので。 
     

  15. 管理人 より:

    るいさん、マロンさん、マスク付きガウンの話、ありがとうございました。
    確か医療従事者を対象に調査したらかなりのパーセンテージで鼻腔からMRSAが検出されたなんてデータがありましたね。
     
    要は2重マスクということですよね。
    それが滅菌である必要性はなさそうな気がしますが、そういう商品が実際にあるんですね。

  16. 田辺ひとみ より:

    人工関節などのOPのとき宇宙服のようなのを着てOPしていた時代もあったようだと書かれていましたが、最近では着ないのでしょうか?うちでは頭だけですが、ヘルメットにフードを着用しています。
    バイオクリーンルームの使用基準を教えて下さい。

  17. ナチ より:

    マスク付のガウンを使用していますが、あって良かったという場面は時々ありますよ。消化器の手術などで術野を除き込むときに、たまにDr.が手にする、吸引や電気メスのコードが顔面近くまできている時(付かないように注意は払っているのですが…)、もしかしたら不潔になっていることもあるんですが、マスクのおかげで不潔にならなかった。という場面もあります。