手術室看護記録の話

「手術室看護記録」の書き方を取り上げてほしい!

そんな リクエスト を頂きました。

うーん、実は私、記録ってニガテなんですよねぇ。
あまり関心を持って「記録」と付き合ってこなかったというか、
書くのキライなんです。積極的に勉強したこともないし、、、

仕事で渋々筆を走らせているくらいの分際で、人様に看護記録云々を
語る自信はまったくないのですが、手術室看護記録について私が思うことを書いてみたいと思います。

手術室看護記録に何を記載するか――。
正直なところ、この話題をネット上でするのは非常に難しいと思います。
というのは、手術室看護記録に関しては、各病院施設毎にさまざまな取り決めがあって運用されている部分が大きい気がするんです。
つまり、病院によってマチマチなんじゃないかな。
病棟とオペ室の連携の取り方は病院によって異なると思いますが、それに付随して、病棟ナースが看護記録にどんな情報を求めているかは施設毎に異なる部分が大きい気がします。

おそらく病院や部署内で、記録の書き方の基準みたいなものが定められていると思いますので、それを参考にするのがいちばんなんじゃないでしょうか?

なーんて、言ったら身も蓋もないか、、、、

◆ 手術記録の種類

気を取り直して、改めて手術室看護記録について考えてみますと、うちの施設の場合は、オペ後に病棟へ渡す記録類としては、下記のものがあります。

・手術記録…執刀医
・麻酔チャート…麻酔科医
・看護記録…看護師
・(コスト表)…看護師

執刀医が書く手術記録(”オペ記事”とも呼んでます)、麻酔科医が書く麻酔チャート、看護師が書く手術室看護記録、それと使った薬剤・医材などを記録するコスト表があります。

基本的にこれらの書類だけが、手術という一大イベントの存在と内容を示す記録・物的証拠となるわけです。

◆ 看護師が書く記録

我々が看護記録に書くべきこととして、まず考えられるのは、執刀医の手術記録にも麻酔科医の麻酔チャートにも記載されないけど重要なこと、それが看護記録に記載されるべき事項と言えます。

例えば手術体位に関すること。側臥位や腹臥位を取ったときの除圧や神経麻痺への予防策とその結果などは看護記録で記載すべきことだと思っています。

それとやっぱり重要なのは、看護師として介入した事柄についての記載でしょうか。入室時の緊張緩和のための声掛けやタッチング等、また術前訪問で得られたデータを実際のオペ時にどう活かしたか―。

とかく「手術室看護なんて看護じゃない!」なんて言われがちなので、自分たちの持っている専門的な看護の視点を、記録を通して積極的にアピールすべきです。手術中、看護師のあなたはなんの仕事をしていたの? そう聞かれたときに記録から「看護をしていた」と読みとってもらえるような記載ができたらいいなと思っています。

あとは病棟に患者さんを送った後に、病棟ナースが看護上必要とするデータは必ず看護記録にも記載する、これも根本的なことですけど、大切だと思います。

例えば、抗生剤や鎮痛剤を使用した時の、投与時刻と量。

病棟に帰ってから追加の薬を使う場合、何時間以上あけて使用すると指示が出ている場合がほとんどですので、時間は重要です。あとは術後嘔気の訴えがあって、プリンペランを使った、とかそういう時も、なるべく看護記録に記載しておいた方がいいと考えてます。

そうした薬剤関係のことは、麻酔科医が取り扱うことなので基本的には麻酔科医が麻酔チャートに記載する部分です。情報はなるべく転記しないで、一元管理したほうがいいものなので、「薬剤に関しては麻酔チャートを参照」ということで、看護記録では原則的には書く必要がないという考え方もあります。

ただ、実際、病棟ナースが麻酔チャートを読めるのか、また読もうという意志があるのかという問題があります。麻酔チャート特有の記号があったり、使った薬も製品名ではなく薬品名で書く(マスキュラックスをVB[Vecuronium bromide]と表記したり)ことになっているため、勉強してなければ意味不明の用紙にしか見えないかも。このあたりは施設によって大きく開きがある部分かと思いますが、うちの病院の場合は、病棟ナースが麻酔チャートに注目するなんてことはほとんどありません。(さすがにICUナースは麻酔チャートを重用視しているみたいですね。勉強してます。)

帰室して、検温などでバタバタ忙しいときに、看護記録と麻酔チャートをじっくり照らし合わせるような余裕もないでしょうから、私は最低限必要なデータは看護記録に集約されていた方が病棟ナースに対しても親切でしょ、という考え方です。そういった意味で、情報は重複してしまいますが、私は重要な薬の使用に関しては看護記録にも含めるようにしています。

◆ 薬の投与量の記載について

余談ですが、薬の使用量の記載方法を皆さんはどんな風に書いてますか?

13:50 ロピオン 1A IV
13:50 ロピオン 5ml IV
13:50 ロピオン 50mg IV

ついつい1A(アンプル)という書き方をしてしまいがちなんですが、原則的には”50mg”など、薬効成分の量を重さで記載するのが原則です。ペルジピンなど、アンプルのサイズが2種類ある場合もありますので。よく口頭では麻酔科医も「ロピオン50ミリね」などと言っていますが、この場合も必ず”ミリグラム”のつもりで言っていますので、ご注意を。

mlという薬液量の単位はあまり使われません。なぜなら薬を希釈して使う場合も多いから。たとえばもともと1mlの薬を0.1mlだけ投与したい場合、1ccシリンジで入れるよりは20倍に生食で希釈して20ccピストンで2cc入れる方が誤差が少なくて正確ですよね。我々としては、ピストンを見れば直感的にわかる”量”に頼ってしまいがちですが、オペ室では常に「希釈」という可能性がありますので気を付けてくださいね。

◆ 法的証拠としての看護記録

先ほど「執刀医の手術記録にも麻酔科医の麻酔チャートにも記載されないけど重要なこと」を看護記録に記載すると書きましたが、看護とは直接関係なくても、「法的証拠として事実の記載を残す」という視点も非常に重要だと思っています。

例えば、手術申し込み伝票と、実際の術式が変更になった場合は、その事実と可能であればその経緯(たとえば、術中迅速診断結果を受けて全摘になった、とか)も記載するようにしています。

あとは、言いにくいことですけど、医者のミスをした事実など。

挿管の際に口唇を傷つけた、歯がぐらついた、など。
特に歯牙損傷の場合は麻酔科医がチャートの備考欄に記載し、覚醒後に患者本人と家族に説明を行なうはずですが、「事実」として私は看護記録にも記載します。

あと、術中の術者のミスも重要なものに関しては記載しています。ちっちゃな動脈を切って血が吹いたとか、そんなのは術操作の許容範囲ですが、明らかなミスや重要なトラブル、例えば整形の観血的整復固定術(観整固)で骨が割れてしまったとか、他臓器を傷つけて止血に時間を要した場合など。これも医師が自分の責任で患者・家族にも説明を行なうことになっていますが、後々トラブルになったときのために、看護師が見た「事実」を別の視点で記録しておくことは重要だと考えています。

たまにDr.から、「このことは記録に残さないでくれ」と頼まれるなんて話を聞くこともありますが、もしそんな場面に遭遇したら、私は書きますよ。むしろそういわれたら絶対に書きます。そいでもって、医師からそういわれた事実をオペ室看護師長に報告します。正直、コワイ気もしますが、手術室という「密室」で働く立場として、この点だけは自分自身の責務と言い聞かせています。

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

なんだかわかったようなわかんないような適当なことしか書けませんでしたが、少しは参考になりましたでしょうか? 具体的にこの点はどう? ということがありましたら、コメントをいただければまたいろいろ追記していきたいと思います。

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コメント

  1. チロ より:

     手術室における看護記録について、またまた面白い話題でした。医師との記録の重複などは私も考えることがありました。病棟経験者としては、看護記録の情報に頼っているということは事実でした。それを考えると、重要な事柄は書き留めておくということの意味が、今回の記事を読んで私の中でもひとつの見解がもてました。
    一つお聞きしたいことが。手術室における、看護師と麻酔科医師との関係というのはどのようなものでしょうか。病棟とは違い考えることもしばしば。何か、同じ職場での仕事をしていく上で、気をつけていることや、感じていることがあれば教えてください。

  2. 管理人 より:

    チロさん、またまたメッセージ、ありがとうございました。
     
    麻酔科医との関係かぁ。
    確かに病棟とは違ってとっても密な感じかもしれませんね。
     
    詳しいお返事は、また今度書かせてください。
    せっかくのゴールデンウィーク、今晩からちょっと遠出してきます。
    基本的にはカレンダー通りの休み、オペ室勤務のいいところですよね。(最終日がon callなんで帰ってきますけど)
     
    それでは、また週末くらいにここに顔を出します。

  3. れん より:

    こんばんわ。今日、いいログを見つけたと、楽しく拝見しています。最近、疑問に思うのが手洗いの方法とガウンについてです。最近、手洗いの際にブラシの必要性がないということで、素荒いのみでOKになりました。しかし、まだブラシを使っている人もいます。ガウンもマスクがあるやつもあれば、ないのを使っている先生もいます。そこのところ、どれが正しいとかあるんでしょうか?マスクがいらないというエビデンスがあるんでしょうか?最近、OP室勤務になったのでわからないことだらけなんですが、なにか参考になるお話があればお聞きしたいのですが・・。お願いします。

  4. なっちゃん より:

    こんばんは^^♪
    リクエスト記事、嬉しかったです。
    ありがとうございました。
    >記録から「看護をしていた」と読みとってもらえるような記載
    >看護とは直接関係なくても、「法的証拠として事実の記載を残す」という視点
    ・・・なるほどと思いました。
    病棟看護師に引き継ぐだけでなく、
    患者さんのためになる記録も大切なんですね。
    連休明けから、先輩方の記録も参考にしつつ、
    積極的に書いてみようと思います。
    ありがとうございました。次回も楽しみにしています♪

  5. 管理人 より:

    少しでも参考になりましたら、うれしいです。
    また、ご質問、取り上げてほしいネタ等ありましたらお気軽にお願いします。

  6. しま より:

    初めまして。しまと申します。深部静脈血栓症に関する予防の実際を御話いただけますか?一応ガイドラインに準じて弾性ストッキングの着用と間欠的空気圧迫法を実施していますが、圧をどれくらいで設定するかとか、圧迫している時間をどれくらいに設定するかで迷います。また、術中圧迫をしていて帰室時に一度電源をオフしたあとに病棟で再度電源をオンするまでの時間は30分未満にするということの根拠についても知りたいのですが・・。

  7. mimimi より:

     「このことは記録に残さないでくれ」ですか?あるんですね.そういう話って.
     
     私は以前,麻酔中に過失をした時に素直に患者に謝ったら,その患者が怒って大問題に発展しました.その後査問委員会でのつるし上げの際に言われた一言.“そんな事,黙っていれば良かったのに”
     
     人間正直が一番ですね.まっすぐ生きましょう.

  8. 管理人 より:

    しまさん、こんばんは。
    深部静脈血栓予防の話、ですね。
    実は以前に同じような質問を頂いて、勉強しなくちゃと思ったまま棚上げになっている課題なんです。最近の手術室看護の話題としてはホットな部分だと思うので興味はあるのですが。。。。
    そういえば、弾性ストッキングコーディネーターという認定資格があるみたいですね。そんな講習会ではきちんとしたエビデンスを持って教えられているんでしょうね。
     
    mimimiさん、こんばんは。こんなBLSとは関係のない部分まで目を通していただいて恐縮です。
     
    私も聞いただけですが、記録に残さないで、みたいなことを言われたって話をうわさ話的には聞きます。もし自分だったらと考えてしまうんですよね。後でトラブルになりそうなときには予防的にきちんと記録に残す、それが私のスタンスです。人間正直、やっぱりそうですよね(^^)